経営理念が浸透しないと、会社で何が起きるか

経営理念を浸透させる方法を考える前に、浸透しないと何が起きるかを確かめます。タナベコンサルティングの2023年のアンケート(有効回答468件)では、長期ビジョンが社内全体に浸透している企業は2割未満で、管理職まで浸透しているのは29.6%、役員・経営幹部までが25.2%でした。この設問は経営理念ではなく長期ビジョンについてのものですが、トップの方針が現場まで届きにくいことを示しています。

理念が現場に届かないと、次のような問題が起きやすくなります。

経営理念が浸透しないことで起きる問題
問題どんな状態か
判断基準のばらつき部署や担当者で対応が違い、「言うことが毎回違う」と顧客に言われる
短期の利益の追求強引な営業や品質の軽視で、優良な顧客が離れ、中長期の企業価値が下がる
意欲の低下と離職「何のために働いているか分からない」と感じ、優秀な社員から辞める
独自の判断による重大な問題「たぶん大丈夫」という判断で、法令違反や品質問題が起きる
部門間の対立「営業と製造」「本社と現場」の対立で、社内調整に時間がかかる

理念の「都合のよい解釈」を防ぐ

理念は、正しく理解されないと、組織を苦しめることがあります。たとえば、「顧客満足度No.1を目指す」と掲げた、ある地域の印刷会社を考えます(仮の例)。大手の顧客から、相場の半額での発注を持ちかけられ、「顧客の期待に応えるのが使命だ」と受けました。既存の顧客からも値下げを求められ、売上は伸びたものの、利益は赤字になります。印刷機はフル稼働し、品質管理が乱れ、残業が増え、ベテランが辞め、優良な顧客からは品質への苦情が届きました。

理念を「何でも言うことを聞くこと」と解釈したことが原因です。理念を言葉にするときは、解釈の幅を狭める説明も添えます。

「顧客満足」の解釈の例(仮の例)
誤った解釈適切な解釈
顧客満足度No.1は、何でも言うことを聞くこと適正な価格で、約束した品質を確実に届けること
顧客の要望は、すべて正しい持続可能な関係を築くこと
値下げ要求に応えるのが顧客満足時には、お断りする判断も必要

運用編:採用・評価・昇進と、日々の判断に組み込む

理念は、制度に組み込まないと、額縁に飾るだけになります。特に、評価の仕組みとのつながりが重要です。理念を実践しない人が出世する会社では、理念は浸透しません。

理念を仕組みに組み込む方法
場面組み込み方の例
採用面接の質問に「当社の理念をどう思うか」を入れる
評価成果だけでなく、理念を実践した行動も評価の軸に入れる
昇進管理職の条件に、理念を自分の言葉で語れること、行動で実践していることを入れる
日々の業務迷ったら理念に立ち返る。理念に基づく判断なら、現場に権限を任せる

成功の見える化と、続ける・進化させる

理念を実践した成果を見せると、浸透が進みます。理念を実践した事例や顧客の評価を、定期的に社内で共有し、小さな行動も表彰して、成功と失敗の事例集をつくります。人は、効果があることを続けるためです。

そして、続けることが最も重要です。経営者が、理念に反する仕事を全社員の前で断るなど、行動で示します。理念に基づく挑戦の失敗は共有し、組織の学びにします。理念そのものは変えず、実践の方法を時代に合わせて更新します。新しい事業を始めるときは、理念との整合を確かめます。whymeの講座資料では、浸透には最低3年かかるとして、1年目は仕組みづくり、3年目で習慣化、5年目で文化の定着を目安にしています。会社によって異なるため、一つの目安です。

浸透度をはかる5つの質問

理念が浸透しているかは、社員に質問すると確かめられます。次の5つを、複数の社員に聞いてみます。答えが具体的に返ってくるかが、浸透度の目安です。

  • 最近、仕事で迷ったとき、経営理念を思い出して判断したことはあるか。具体的には
  • あなたの日々の仕事は、経営理念のどの部分に、どう貢献していると思うか
  • 新入社員や取引先に、うちはどんな会社かと聞かれたら、どう説明するか
  • 最近、同僚や部下が経営理念に沿った素晴らしい行動をした例はあるか
  • 大きな利益は出るが、経営理念に反する仕事の依頼が来たら、どうするか。なぜか