戦略と戦術の違い|戦場と武器

戦略と戦術の違いは、決めることの違いです。戦略は、どの戦場で戦うかを決めることです。自社の強みが最も生き、競合が少ない、または弱い戦場を選ぶのが、戦略の本質です。戦術(施策)は、どの武器で戦うかを決めることです。選んだ戦場で最も効果的な武器を選び、使い方を磨くのが、戦術の役割です。

つまり、戦略があってこそ、戦術が生きます。戦場が決まっていないと、どの武器が必要か判断できません。事業計画では、経営理念、経営目標、競争戦略、施策、KPI・アクションプラン、数字の計画の順に積み上げます。施策は、経営の方針と現場の意見をすり合わせる必要があるところです。自社の強みを起点に、選ばれる理由を整理する考え方は、中小機構のJ-Net21の「優位性の考え方」にも通じます。

戦略に合う施策と、合わない施策の例(仮の例)
戦略(戦場)戦略に合う施策(武器)戦略に合わない施策
建設会社:地域の防災・耐震工事の市場で戦う(技術力があり、競合が少なく、需要が増えているため)耐震診断の技術、自治体との連携、補助金の申請代行デザイン提案力、激安価格、スピード施工
製造業:医療機器の試作品・小ロットの市場で戦う(高い精度が必要で、大手は小ロットを嫌がるため)高精度の加工技術、設計段階からの提案力、早い見積回答大量生産の低コスト化、汎用品の在庫販売、海外での生産

戦略なしで施策に飛びつくと、何が起きるか

たとえば、ある地方の建設会社を考えます(仮の例)。社長が経営セミナーで「AIの導入で生産性が2倍になった」という話を聞き、翌週の会議で全社にデジタル化を宣言しました。ベテランの職人が「携帯電話も使いこなせない」とつぶやいても、「すぐに慣れる」と進めます。半年後、職人は紙の日報を書き、事務員がそれをシステムに再入力して、二度手間で残業が増えました。月額の費用は払い続け、誰も使っていません。

長年の取引先から、「AIは要らない。あなたたちの腕と信頼があるから発注している」と言われ、社長は、本当の強みが職人の技術と地元の信頼だったことに気づきます。デジタル化は手段で、目的ではありませんでした。戦いの場を決めずに、武器だけを買ってしまったのです。

戦略なき施策の5つの悪影響

戦略のない施策は、会社のさまざまなところに悪影響を与えます。

戦略なしで流行の施策に飛びつくことの悪影響
分類起きること
財務高額の投資が使われず、解約できない費用が続く。必要な人材育成や設備更新の資金がなくなる
組織・人材「また思いつきか」という諦めが広がり、賛成派と反対派に分かれ、優秀な社員が辞める
競争力長年の技術やノウハウが引き継がれず、特徴のない会社になる
経営の機能「流行っているから」が判断基準になり、方針が頻繁に変わって、経営者への信頼を失う
長期の企業価値「軸のない会社」という印象が定着し、信頼と業績の回復に長い時間がかかる

陥りやすい戦術の6つの罠

施策を選ぶときに、次の6つの罠に注意します。補助金は、戦略に合うものであれば、有効な手段になります。戦略が先で、補助金や流行は後です。

陥りやすい戦術の6つの罠
罠典型的な考え方起きること
武器コレクター補助金が出るから最新設備を買おう使いこなせず、宝の持ち腐れになる
大手の真似大手がやっているから、うちもやろう前提条件(資金・人材)が違い、形だけ真似て本質を理解しない
逃げ遅れこの商品で30年やってきた。今さら変えられない市場が縮小しても投資を続け、資源を消耗する
中途半端な差別化品質も価格もサービスも、普通より少し上選ぶ理由が不明確で、記憶に残らない
お客様は神様顧客の要望はすべて受け入れる収益性の悪い仕事まで受け、強みから外れて品質が下がる
全面戦争若者も高齢者も法人も個人も、全部に対応する資源が分散し、どの戦場でも中途半端になる

施策を選ぶ前に確認すること

新しい施策を決める前に、戦略との関係を確かめます。デジタルやAIも、自社の戦略と強みに合うものであれば、有効な武器になります。

  • 自社が戦う「戦場」を、一言で言える
  • その戦場で、自社の強みが生きる理由を説明できる
  • 候補の施策が、その戦場で勝つために必要か確かめた
  • 補助金や流行ではなく、戦略を理由に選んでいる
  • 現場が使えるか、現場と事前にすり合わせた