なぜ、戦略は現場の施策に落ちないのか

戦略を部門別の施策に落とし込む前に、落ちない理由を確かめます。ある卸売会社の例を考えます(仮の例)。社長が全社会議で「顧客データを活用した提案型の営業へ転換する」と宣言し、「細かいことは各自で考えてほしい」と伝えました。3か月後、営業は「顧客に会いに行くこと」と解釈して訪問を増やし、物流は毎日の在庫表の作成を始めて残業が増え、経理は高額なAIツールを契約したものの、誰も使えません。部門間では、「在庫があると言っていたのに」「昨日の時点ではあった」と衝突が起きました。

社長の戦略が悪かったのではなく、抽象的な戦略を、部門の仕事に翻訳していなかったことが原因です。「各自で考えて」は、現場から見れば丸投げになります。

戦略が部門の施策に落ちない3つの根本的な理由
理由起きていること
抽象と具体を翻訳する作業が足りない階層の間にギャップがあることを理解していない。戦略をつくった時点で完了と考える。具体化すると責任が明確になるため、曖昧にしてしまう
部門の特性を無視した一律の指示営業は関係づくり、製造は品質、経理は数字と、仕事の本質が違う。同じ指示が公平とは限らない
成功のイメージを共有できていない「当然分かるはず」で言語化しない。部門ごとにゴールが乱立し、何ができたら成功かを定義していない

施策とは|3つの原則

施策とは、抽象的な戦略を実現するために、各部門が「何をどのように変えるか」を具体的に示した実行方針です。次の3つの原則で考えます。中小機構のJ-Net21でも、計画の目標を部門別・個人別・期間別に細かく分けて、数値目標を明確にすることが、認識のずれを防ぐ方法として紹介されています。

施策の3つの原則
原則悪い例良い例
部門の言葉に翻訳する全部門に「DXを推進せよ」と伝える営業は「顧客情報をタブレットで管理」、製造は「生産日報をデジタル化」と置き換える
現状から一歩だけ進める紙の日報から、いきなりAIで自動分析紙の日報を、まず表計算ソフトへの転記に変える
やめることとセットで考える「週次のレポート作成」を足して、業務を増やすレポートを足す一方で、日報を簡素にする

施策をつくる7ステップ

施策づくりは、戦略を機能に分け、部門に割り当て、現状を確かめ、行動に変えるという順で進めます。上の卸売会社が「顧客データを活用した提案営業」を進める場合の例です。

施策をつくる7ステップ(仮の例)
ステップやること例
1 戦略の要素分解戦略を、実現すべき機能(3〜5個が目安)に動詞で分けるデータを集める/分析する/提案をつくる/提案を伝える
2 機能の部門割り当て最も適した部門に、主担当と副担当を決める分析は企画部が主担当、システム部が支援。提案の作成は営業が主担当
3 現状業務の棚卸し各部門の業務と時間配分を可視化し、新施策の時間と、やめられる業務を探す営業の時間配分を表にして、新しい取り組みに回せる時間を確かめる
4 ギャップ分析やるべきことと、今できることの差を明確にする日報が紙のみ、分析手法を知らない、提案書が価格表のみ
5 施策への転換機能を、部門が明日からできる行動に変える。時間・頻度・ツールも決める「営業データから傾向を読む」→「売上上位の顧客の購買推移を見る」→「毎週、先月分の売上表を見る」
6 実現可能性の検証能力と意欲と時間の面から、本当にできるかを確かめる能力が足りなければ研修、意欲が低ければ動機づけ、両方低ければ再検討
7 施策の統合と調整部門別の施策をつなぎ、矛盾や重複、依存関係、タイミングを整える営業の入力形式を、分析側が欲しいデータの形式に合わせる

進めるときの心構え

施策への落とし込みには、手間がかかります。戦略を考えるより、施策に落とし込むほうが時間がかかることが多いため、手間を惜しむと、後で手戻りが生じます。次の3点を意識します。完璧を求めず、7割ほどの精度で始めて、走りながら改善する。机上で考えず、各ステップで現場の声を聞く。いきなり全社に広げず、パイロットの部門で小さく始め、成功体験をつくってから広げる。

よくある失敗は、ステップを飛ばして行動の指示だけを出すこと、現場の視点がない施策をつくること、特定の部門に負担が偏ることです。数値の目安は、会社や業種で変わるため、一つの目安として使います。

  • 戦略を、部門の言葉に翻訳した
  • 施策は、現状から一歩だけ進む内容にした
  • 新しい施策と一緒に、やめることを決めた
  • 能力・意欲・時間の面から、実現できるかを確かめた
  • 部門間の依存関係とタイミングを整えた