戦略は立派でも、組織がそのままだと実行されない

中小企業の組織設計で最初に確かめたいのは、戦略と組織のずれです。たとえば、ある部品メーカーが、新しい分野への参入を決めたとします(仮の例)。戦略発表会は盛り上がりましたが、組織図を見ると、新分野を担当する営業責任者はその分野の知識がなく、品質管理の責任者は営業部長が兼ねています。若手の中心人物は、製造現場から離せません。

結果として、新規の開拓は進まず、開発も止まり、将来を期待していた若手が「やりたいことと、やらされることが違いすぎる」と会社を去りました。戦略は間違っていなかったかもしれませんが、実行する人、仕組み、権限、意欲が揃っていなかったのです。戦略は誰でも作れますが、実行組織は簡単には作れません。

戦略ファースト型と組織ファースト型
戦略ファースト型(組織は戦略に従う)組織ファースト型(戦略は組織に従う)
進め方戦略を決め、それを実現する組織をつくり、必要な人材を採用・育成する現在の組織の能力を把握し、実現できる戦略を選び、組織の強みを生かす
前提組織を柔軟に変えられる組織は簡単には変えられない
向く場面成長期の新興企業、大企業の新規事業、大きな転換人材の代わりが見つけにくい会社、地域密着型、専門性の高い会社

組織設計の3原則

組織設計とは、「誰が何を担当し、どんな権限で動くか」を決めて、戦略を実現するために全員が迷わず動ける仕組みをつくることです。次の3つの原則で進めます。権限を渡して主体性を引き出す考え方は、中小機構のJ-Net21の人材育成の解説にも出てきます。

組織設計の3原則
原則ポイント避けたい例
機能から考える(人ありきにしない)戦略に必要な機能を先に定義し、そのあとで適任者を探す、または育てる「この人がいるから、この人に合う仕事をつくろう」
責任と権限をセットにする責任だけ渡して決定権を渡さないと、すべてが社長待ちになる「新規事業を任せる」と言いながら、決定はすべて社長が行う
既存業務とのバランスを設計する時間配分や引き継ぎ、分担も同時に決める「新しい戦略も既存業務も、両方100%頑張れ」

戦略を実現できない組織設計の8つの罠

組織設計には、よくある失敗があります。次の8つの罠と対策を確認します。

組織設計の8つの罠と対策
罠起きること対策
とりあえず兼務どれも中途半端になり、優先順位が日替わりになる重要な戦略は専任者を置く。難しければ戦略を絞る
優秀な人に集中その人が倒れると止まり、他の人が育たない中心人物とサポートのチーム制にし、責任と権限を分ける
現場を知らない新組織現場の実態と離れた施策になり、協力が得られない現場経験のある人を配置し、現場とのローテーションも行う
年次で責任者を決める戦略に必要な判断ができず、意思決定が遅れる戦略に合った専門性のある人を責任者にする(年齢・年次にかかわらず)
評価制度がそのまま新しい挑戦をしても評価されず、現状維持が合理的になる戦略に合わせて評価の基準を変え、挑戦の失敗を許容する項目を明示する
縦割りのまま部門間で責任を押し付け合い、全体の最適を失う横断のチームを置き、共通の指標で評価する
権限なき責任スピードが出ず、責任者が名ばかりになる責任に見合う権限(予算・人事など)を渡し、許容する失敗の範囲を決める
外部への丸投げ社内にノウハウが残らず、外部が去ると元に戻る外部は支援役にし、実行の主体は社内に置く

組織図をつくる7ステップ

組織図は、描くこと自体が目的ではありません。戦略を実現する実行体制をつくるための道具です。次の7ステップで進めます。以下の説明は、新しい事業を始める場合を想定した一般的な手順です。

組織図をつくる7ステップ
ステップやること
1 戦略の要素分解戦略に必要な組織機能を洗い出し、重要度(戦略への影響、顧客への価値、競合との差別化)を判定する
2 現組織の棚卸し部署ごとの人数・主な業務・保有スキル・余力を可視化する。個人の隠れたスキルも探す
3 ギャップ分析必要な機能と現組織を比べ、不足を明確にし、異動・採用・外部の活用などの対応案を決める
4 基本方針の決定最初は社長直轄のプロジェクト型で始め、体制が固まったら独立した事業部型に移す
5 人材配置計画具体的な配置に加え、育成計画も決める。現業の引き継ぎも設計する
6 権限と責任の明確化RACI図などで、誰が実行し、誰が最終責任を持つかを決める
7 組織図の作成と合意形成段階的な移行を図にし、キックオフや約束の場で、全員の合意をつくる