事業ライフサイクルとは|事業にも季節がある

事業ライフサイクルとは、事業が成長する段階に応じて、投資から回収、撤退まで戦略を変える考え方です。製品の寿命を導入・成長・成熟・衰退の4段階で見る考え方が一般的で、中小機構のJ-Net21でも、段階ごとに価格の考え方を変える例が紹介されています。whymeの講座資料では、成熟期の後に飽和期を加えた5段階で整理しています。

同じ事業が、同じ戦略で一生続くとは限りません。冬に夏服を着ていては体調を崩すように、段階に合わない戦略は、経営を傷めます。

自社の段階を、4つの視点で判別する

段階の判別は、売上、顧客、競合、社内の4つの視点から行います。数値の基準は、事業や業種で異なります。次の表は、傾向をつかむための目安です。

事業ライフサイクルの判別表(目安)
視点導入期成長期成熟期飽和期衰退期
売上不安定で予測しにくい。赤字が続く高い成長が続く。黒字が見えてくる成長率が一桁台に落ち着く。伸びが鈍化ほぼ横ばい継続的に減少。赤字が常態化
顧客新規が中心。リピーターが少ない口コミや紹介が増える。問い合わせが急増既存客の維持が中心。値下げ要求が増える顧客数が頭打ち。大口への依存が高い顧客離れが止まらない。代替品に移る
競合少ない、または不明確似た商品が出始める。価格競争はまだ穏やか多数。差別化が難しく、価格競争が日常化業界再編の話が出る。弱い会社の撤退が始まる撤退が相次ぐ。残る企業も消極的
社内試行錯誤の連続。業務が標準化されていない人手不足で採用に追われる。生産が追いつかない業務が効率化されルーティン化。改善活動が中心コスト削減が最優先。新規投資に消極的優秀な社員が辞める。投資資金を調達しにくい

ステージごとの戦略と、追う指標

段階が分かったら、戦略と、追いかける指標を切り替えます。指標は、段階の目的に合うものを選びます。

ステージ別の事業目的・戦略・指標の例
ステージ事業の目的主な戦略追う指標の例
導入期市場をつくり、認知を確立する先行投資で市場を開拓。ターゲット顧客の明確化認知率、初期の顧客数、改良の周期
成長期シェアを広げ、競争優位を確立する設備投資、販路の拡大、ブランドの構築売上成長率、市場シェア、顧客獲得コスト
成熟期収益性を高め、効率的に運営するコスト削減、差別化の強化、顧客の維持営業利益率、資本の収益性、顧客の維持率
飽和期キャッシュを確保し、市場での位置を保つ選択と集中、ニッチ市場の開拓、付加価値の向上フリーキャッシュフロー、顧客単価
衰退期撤退や転換を判断する撤退・売却の検討、残存者の利益、事業の転換キャッシュの回収率、撤退費用

成熟期に、成長期の戦略をとる失敗

ある地域の印刷会社を考えます(仮の例)。ここ数年、売上は横ばいでした。社長は業界セミナーで刺激を受け、「まだ伸びる。守りではなく攻めの投資で売上を大きく伸ばす」と宣言し、設備と営業人員を増やしました。幹部は「印刷市場は縮小しています」と伝えましたが、「だからこそチャンスだ」と進めます。

1年後、新規の営業は成果が出ず、獲得できた顧客も価格競争を求めてきました。設備投資と営業の費用が重くなり、資金に余裕がなくなります。市場は成熟から衰退に向かっていたのです。成熟期の戦略は、既存の顧客を守り、利益を確保しつつ、差別化できる領域を探すことです。既存顧客の維持と新規の開拓の優先順位は、業種や状況によって異なるため、数字を見て判断します。

アクセルとブレーキを踏むサイン

投資を加速するか、効率化に舵を切るかは、サインで確かめます。ここでも、願望ではなくデータを基準にします。

  • アクセル:顧客の引き合いが、供給を上回り始めた(納期が間に合わない、問い合わせに対応しきれない)
  • アクセル:競合が参入し始めたが、市場はまだ伸びている
  • アクセル:再現できる小さな成功のパターンが見えた
  • ブレーキ:顧客を獲得する費用が、その顧客から得られる利益を上回り始めた
  • ブレーキ:値下げ圧力が日常になり、価格の話ばかりになった
  • ブレーキ:売上は伸びているのに、手元の現金が減っている

経営者が、段階を見誤る5つの理由

段階を見誤るのは、経営者の判断力の問題だけではありません。心理や組織の仕組みが影響します。成功体験が現実の認識をゆがめる、衰退を認めることを自己否定のように感じる、自分に都合のよい解釈をする(確証バイアス)、組織の慣性で同じことを続けたがる、外部の期待に応じて不適切な戦略を選ぶ、の5つです。

赤字事業の撤退で留意する点は、中小機構のJ-Net21のQ&Aにもまとめられています。撤退や転換は、感情ではなく、数字と顧客の状況で判断します。