ビジョンと目標の違いとは

ビジョンと目標の違いは、「どこへ向かうのか」と「いつまでに、どこまで進むのか」の違いです。ビジョンは最終的にめざす姿、ゴールはそこへ向かう途中の大きな到達点、目標はゴールまでの道のりを刻む、期限と数字のある小さな到達点です。三つを混ぜたまま掲げると、何のために何をすればいいのかが見えなくなります。

ビジョンという言葉は、辞書では「将来の構想」「展望」と説明されています。仕事で使うときは、もう一歩踏み込んで「自分(たち)が何を実現したいのか」を言葉にしたもの、と捉えると分かりやすいかなと思います。

三つの違いを並べると、次のようになります。

ビジョン・ゴール・目標の違い
項目ビジョンゴール目標
答える問い何を実現したいのか、何のためかいつ、どこにたどり着くのか次に、いつまでに何を達成するのか
時間の長さ長い(期限を決めないことも多い)中くらい(数年ほどの節目)短い(月・四半期・半年など)
表し方言葉(めざす姿、意味)到達点と期限数字と期限
見直しほとんど変えない状況に合わせて見直すこまめに見直す
達成したら次のビジョンを考える次のゴールへ進む次の目標へ進む

いまの状態とゴールのあいだには差があります。その差を埋めるために取り組むことが「課題」です。いまの状態から、目標を一つずつ越えてゴールにたどり着き、さらにその先のビジョンに近づいていく。三つは別々のものではなく、一本の線でつながっています。

事業計画の支援をしていて、つまずきやすいと感じるのは、目標や戦略がスローガンのままになり、精神論に頼ってしまうことです。「売上〇億円」という目標はあっても、それが何のための数字なのか、誰が何をすればそこに届くのかがつながっていない。ビジョン・ゴール・目標を一本の線で説明できるかどうかが、計画が動くかどうかの分かれ目だと私は考えています。

ビジョン・ゴール・目標を、100m走の例で考える

セミナーでは、陸上の100m走の選手を例に、三つの違いを説明しています。

  • ビジョン:日本人が短距離走で世界のトップになれると証明する
  • ゴール:〇年7月の世界大会で、6位以内に入賞する
  • 目標:〇年4月までに、タイムを10秒00以下に縮める

ビジョンには期限も数字もありません。そのかわり、「なぜ走るのか」が書かれています。ゴールには大会という節目と順位があり、目標には、ゴールの手前で越えるべきタイムと期限があります。

仕事に置き換えると、たとえば次のようになります(仮の例です)。

  • ビジョン:お客様が困ったとき、最初に相談される会社になる
  • ゴール:2年後までに、主な取引先の半分から、新しい相談を受けている状態にする
  • 目標:この半年で、主な取引先をすべて訪ね、困りごとを一つずつ聞く
  • 課題:営業の時間の多くが見積もりと受注の処理に取られ、話を聞く時間がない

例を並べると、ビジョンは数字では書けないことが分かります。数字で書こうとすると、それはゴールか目標になります。逆に、目標を言葉だけで書くと、達成したかどうかが分からなくなります。目標は数字で、ビジョンは言葉で。この使い分けが基本です。

目標の立て方そのものは、KPIの設定方法|SMARTで詳しく書いています。ここで大事にしたいのは、SMARTに当てはめる前に、その目標がどのビジョンにつながっているのかを確かめることです。コーチングでも、めざす姿を聞いたあとに「それは何のためですか?」と問いかけます。この問いに答えられない目標は、達成しても次につながりにくいのかなと思います。

ビジョンが不明確だと、人は動けない

ビジョンがはっきりしないまま目標だけを渡されると、人は動けなくなります。起きることは、大きく三つあります。

一つ目は、納得感がないので、当事者意識が湧かないこと。 「なぜこの数字なのか」が分からないまま追いかける目標は、どこか他人ごとです。達成できなくても「上が決めた数字だから」と思えてしまいます。

二つ目は、具体的に何をすればいいか分からないこと。 ビジョンがあれば、「その方向に近づく行動かどうか」で選べます。ビジョンがないと、目の前の仕事を片づけることが目的になり、優先順位を決める基準がなくなります。

三つ目は、取り組むうちに目的を忘れ、続かないこと。 始めたときは意味が分かっていても、忙しくなるにつれて「何のためにやっていたのか」が抜け落ちます。目的を忘れた取り組みは、いちばん先に削られます。

当事者意識の育て方は当事者意識とは?で、目標を日々の行動に落とすやり方はアクションプランとは?書き方と作り方で書いています。どちらも、出発点はビジョンです。

計画は、日々の行動と成果につながって初めて意味があります。だから私は、目標の数字を決める前に、「この計画で何を実現したいのか」を言葉にしておくことが大事だと考えています(計画と実行のつなぎ方は事業計画の作り方と実行管理で書いています)。

ビジョンを持つと、必要な情報に気づきやすくなる

ビジョンには、もう一つ見落とされがちな働きがあります。必要な情報に気づきやすくなることです。

人の脳は、まわりにある大量の情報の中から、意識して受け取るべきものを選んでいます。これを選択的知覚と言います。車を買おうと考え始めた途端、街で同じ車ばかり目に入るようになる、という経験をした方も多いと思います。車の数が増えたのではなく、脳が受け取る情報を選び直したのです。

ビジョンを持ち、いまの状態との差を感じると、人は落ち着かない不快感を覚えます。心理学で認知的不協和と呼ばれる状態です。この不快感を解消しようとして、脳は差を埋めるのに役立つ情報を、より強く拾うようになります。

ビジョンがないと、何が大事かの基準がないので、情報は流れていくだけです。ビジョンがあり、いまとの差を感じていると、会話や資料、ニュースの中から「これは使える」というものが目に入るようになります。ビジョンを掲げる意味は、ここにあります。必要な情報に気づきやすくなるので、行動の選び方が変わり、ビジョンに近づく確率が上がっていきます。

ただし、選択的知覚は思い込みにも働きます。「この人はこういう人だ」と決めてかかると、それに合う情報ばかりが目に入ります。判断の偏りについては認知バイアスの例と種類で整理しました。ビジョンで情報を選びながら、ときどき「見落としているものはないか」と立ち止まる。その両方が要るかなと思います。

人が動き出すビジョンの条件:意志・義務・憧れ

同じビジョンでも、どれくらい本気でそれを成し遂げたいと思っているかで、実現の見込みは大きく変わります。ビジョンの強さは、三つに分けて考えると分かりやすくなります。

ビジョンの3つの種類と、起きやすいこと
ビジョンの種類どんなビジョンか起きやすいこと
① 意志のビジョン(want to)自分の意志で選んだビジョン達成に向けて、自分から取り組める
② 義務のビジョン(have to)上から押し付けられたビジョン納得感がなく、うまくいかないと諦めやすい
③ 憧れのビジョン(hope to)できれば楽に手に入れたい、漠然としたビジョン行動につながらず、実現しにくい

人が動き出すのは、①の意志のビジョンです。会社のビジョンは、どうしても上から渡されるものになりがちです。人から与えられたものには、反発が起きやすい。だからこそ、会社のビジョンを、一人ひとりが自分の仕事とのつながりで語り直す必要があります。「会社はこう言っている」ではなく、「自分はこの仕事で、ここに近づきたい」と、主語を自分に置いて言えるかどうかです。

私がコンサルタントになったきっかけは、会社員時代のリーマン・ショックでした。豊田自動織機で事業企画を担当していたとき、事業部の業績が急に悪化しました。企画の立場にいながら、私は何も貢献できませんでした。経営の視点と知識を身につけて、現場を支えられるようになりたい。そう考えて、コンサルタントに転じました。

誰かに決められた方向ではなく、自分の悔しさから選んだ方向でした。だから、思うようにいかない時期があっても、15年以上この仕事を続けてこられたのだと思います。ビジョンは、立派な言葉である必要はありません。自分が本気でそうしたいと思えるかどうか。それがいちばんの条件です。

ビジョンの強さを確かめる5つの問い

自分のビジョンが意志のビジョンなのか、義務や憧れに近いのかは、次の五つの問いで確かめられます。

  1. なぜ、そのビジョンを達成したいと思っているのですか?
  2. そのビジョンを達成するために、どれくらいの時間を考えていますか?
  3. そのビジョンを達成するために、これまでどのような行動をとってきましたか?
  4. そのビジョンが達成できなかったとしたら、どうしますか?
  5. そのビジョンを達成した後、次のビジョンとして何を設定しますか?

1つ目の「なぜ」に、自分の言葉で答えられるか。3つ目の「これまでの行動」に、小さくても何か挙げられるか。この二つに詰まるなら、そのビジョンはまだ義務か憧れに近いのかもしれません。

この問いは、部下との1on1ミーティングでも使えます。部下に「あなたのビジョンは?」といきなり聞いても、答えに困ることが多いはずです。まず部下が担当している仕事の目標から入り、「それを達成したら、その先に何がありますか?」と、一段ずつ先を聞いていくと話しやすくなります。

ビジョンは、最初からはっきりした形で見つかるものではありません。問いかけられ、話し、行動してみる中で、少しずつ作っていくものだと私は考えています。whymeの人材開発・企業研修では、担当している仕事を題材に、本人が何をめざしているのかを対話で確かめるところから始めます。