コーチングとティーチングの違い

コーチングとティーチングの違いは、答えを相手から引き出すか、こちらから与えるかにあります。ティーチングは、知識ややり方を教えて答えを渡す関わり方です。コーチングは、問いかけを通じて相手が自分で答えを見つけ、行動に移せるよう支える関わり方です。

似た言葉に、コンサルティングとカウンセリングがあります。四つを「未来に向かうのか、過去の問題に向き合うのか」「答えを与えるのか、引き出すのか」で並べると、次のようになります。

ティーチング・コーチング・コンサルティング・カウンセリングの違い
項目ティーチングコーチングコンサルティングカウンセリング
時間の向き未来(できるようになる)未来(目標を達成する)過去〜いま(起きている問題を解く)過去〜いま(心の負担を和らげる)
答え与える引き出す与える引き出す
主な目的知識ややり方を身につけてもらう相手の気づきと行動を後押しする分析して、解決策を示す悩みを受け止め、回復を支える
関わる人の役割教える問いかける、聴く調べる、提案する聴く、受け止める
向いている場面初めての仕事、手順が決まっている仕事正解が一つでない課題、本人の目標専門の知識が要る経営の課題気持ちの落ち込み、心の不調

私はコンサルタントとして15年以上、経営の課題を分析し、解決策を提案する仕事をしてきました。一方で、認定マスターコーチとして、300人以上のマネージャーに1on1コーチングをしてきました。答えを渡す側と、答えを引き出す側の両方に立ってきたので、どちらが優れているかではなく、場面によって使い分けるものだと考えています。

コーチングとは:行動の変化を促す技術

コーチングとは、対話を通じて相手に気づきを促し、目標の達成に向けて、相手が持っている力を引き出す技術です。私のセミナーでは「行動変容を促す技術」と説明しています。知識を増やすことより、相手の行動が変わることに重きを置きます。

一人だけで考えていると、どうしても視野が狭くなります。問いかけてくれる相手がいると、見落としていたことに気づいたり、新しいアイデアが出てきたりします。コーチングを受けると、大きく四つのものが増えます。

  • 新しい気づき
  • これまでになかった視点
  • 考え方や行動の選択肢
  • 目標の達成に必要な行動

コーチングをするときには、お互いの約束事が三つあります。

  1. インタラクティブ(双方向):上下ではなく対等な関係で、話す・聴くの役割をお互いが担います。
  2. テーラーメイド(個別対応):相手をよく観察し、その人に合った関わり方を選びます。
  3. オンゴーイング(現在進行形):相手の行動が変わり、成果が出るまで、関わり続けます。

三つ目が、ティーチングとの大きな違いかなと思います。教えたら終わり、ではなく、相手が動き出すところまで付き合う関わり方です。

ティーチングとは:メリットとデメリット

ティーチングとは、知識や経験を持つ人が、やり方や正解を教える関わり方です。職場では、仕事の手順を見せる、資料の作り方を教える、といった場面がこれに当たります。

ティーチングのメリットは、短い時間で伝わること、仕事の品質がそろうこと、経験の少ない人でもすぐに動けることです。

一方で、ティーチングだけを続けると、デメリットも出てきます。大きく三つあります。

一つ目は、受け身になりやすいこと。 答えをもらうことに慣れると、部下は「まず上司に聞こう」と考えるようになります。

二つ目は、教える人の経験の範囲を超えにくいこと。 教えられるのは、上司が知っているやり方までです。部下の方が現場に近い場面でも、上司のやり方に合わせることになります。

三つ目は、本人が考えていないので、行動が続きにくいこと。 言われた通りにはやっても、状況が少し変わると止まってしまいます。

上司の側も、毎回答えを出し続けることになり、時間が取られます。ティーチングが悪いのではなく、ティーチングだけで部下を育てようとすると、こうした形になりやすいということです。

なぜ答えを渡さないのか

コンサルタントの仕事では、課題を分析し、提案書にまとめて経営者に説明します。どれだけ筋の良い提案でも、本人が考えて決めたものでなければ、実行の段階で止まりやすい。提案する側に長く立ってきたからこそ、私はそう考えています。

人から渡された答えは、頭では分かっても、自分のものになっていません。うまくいかないことが起きたとき、「言われた通りにやっただけ」と思えてしまいます。自分で考えて決めたことなら、うまくいかなくても、やり方を変えてもう一度試せます。

セミナーでは、リーダーシップのスタイルを二つ並べて説明しています。指示や命令で部下を動かし、地位や知識の高さでリードする「支配型」と、メンバーの意見を聴き、強みを引き出して成長を支える「サーヴァント型」です。サーヴァント型で関わるときに鍵になるのが、気づきを促す問いかけです。

問いかけは、「いまの自分」から視点を少しずらすと効きやすくなります。

  • 時間をずらす:「1年後の自分から見たら、いま始めたいことは何ですか?」「入社したときに掲げていた目標は何でしたか?」
  • 人をずらす:「部長の立場なら、どんなチームを作りたいですか?」「お客様の立場なら、どんな機能が欲しいですか?」
  • 状況をずらす:「納期が半分なら、どの仕事から削りますか?」

答えを渡さず、ともに作る。これが、私がコンサルティングでもコーチングでも大切にしている関わり方です。

ティーチングを選ぶ場面と、使い分け

答えを渡さないのが良い、と言いたいわけではありません。問いかけても、相手の中に答えの材料がなければ、部下は困るだけです。使い分けの目安を表にまとめました。

場面ごとの向いている関わり方
場面向いている関わり方理由
初めての仕事、経験がまだ少ないティーチング考える材料がまだないため
安全、法令、社内の決まり、お客様との約束ティーチング正解が決まっていて、自由に選ぶものではないため
トラブルの初動など、急ぎで影響が大きいティーチング考えてもらう時間より、早く動くことが優先されるため
目標やビジョンを決めたいコーチング本人が納得しないと、行動が続かないため
改善策が計画通りに進まないコーチング止まっている理由は、本人がいちばん知っているため
会議で意見が出ない、アイデアの壁打ちがしたいコーチング問いかけで、考えが言葉になりやすくなるため

同じ相談でも、返し方で部下の動きは変わります。次は仮の例です。部下から「お客様への提案資料、どういう順番で組み立てればいいですか?」と聞かれたとします。

  • ティーチングで返す:「最初に課題、次に解決策、最後に費用の順でまとめてください」
  • コーチングで返す:「お客様がいちばん知りたいことは、何だと思いますか?」「それを最初に見せるとしたら、どんな順番になりますか?」

前者は早く、後者は時間がかかります。ただ、後者で部下が自分で組み立てた順番なら、次の提案でも同じ考え方を使えます。初めて資料を作る部下には前者、何度か作ったことがある部下には後者、と分けるのがよいかなと思います。

同じ部下でも、仕事によって向いている関わり方は変わります。人で分けるより、仕事や場面で分ける方が現実的かなと思います。

二つを組み合わせることもできます。まず手順を教え、何度かやってもらったあとに「やってみて、どうでしたか?」「次はどこを変えたいですか?」と問いかける。教えてから問うと、部下は自分のやり方を考え始めます。

途中で関わり方を切り替えるときは、「ここは決まりなので、先にお伝えしますね」と一言添えると、問いかけの時間との区別がつきます。

カウンセリング・コンサルティング・メンタリングとの違い

コンサルティングは、専門家が状況を調べて分析し、解決策を示す関わり方です。自社にない専門の知識が要るときには、大きな助けになります。ただ、実行するのは会社の人です。私がコンサルティングで、提案を渡して終わりにせず、経営者と一緒に作る進め方をとっているのは、そのためです。

カウンセリングは、過去の出来事や心の負担に向き合い、気持ちの回復を支える関わり方です。答えを引き出す点はコーチングと同じですが、目標の達成より、いまの苦しさを和らげることが先にきます。部下の様子から心の不調がうかがえるときは、上司がコーチングで何とかしようとせず、社内の相談窓口や専門家につなぐことを優先してください。

メンタリングは、経験のある先輩(メンター)が、自分の経験をもとに助言しながら、長い目で成長やキャリアを支える関わり方です。経験を伝える点ではティーチングに近く、相手の話を聴いて考えを深める点ではコーチングに近い。ちょうど二つの間にあるのかなと思います。

コーチングを受けたいと思ったら

コーチングを学ぶいちばんの近道は、自分が受けてみることです。問いかけられる側に立つと、考えが広がる問いと、答えに詰まる問いの違いがよく分かります。私自身も、独立を考えていた時期にコーチングの資格を取りました。

セミナーでは、コーチングを使うとよいタイミングとして、ビジョンや目標をはっきりさせたいとき、改善策が計画通りに進まないとき、新しいことに取り組む時間を作りたいとき、上司に改善を提案して納得してもらいたいとき、などを挙げています。どれも、答えが外にあるのではなく、自分の考えを整理することで前に進む場面です。

コーチングを受けたいと思ったときは、三つの点を確かめてください。

  1. 何を変えたいのかを、先に言葉にする。 目標がはっきりしているほど、対話が前に進みます。言葉にできないこと自体をテーマにしても構いません。
  2. 対等に話せる相手かどうか。 一方的に助言されるだけなら、それはティーチングやコンサルティングに近いものです。
  3. 続けられる期間と頻度か。 行動が変わるまで関わるのがコーチングなので、1回で終わるより、間を空けすぎずに続けられる形を選びます。