当事者意識とは
当事者意識とは、目の前の仕事や問題を「自分のこと」として捉え、自分から動こうとする意識です。反対にあるのが、問題の原因を周りや状況に求め、自分は被害を受けている側だと感じる「被害者意識」です。
どちらの意識が強いかで、同じ場面でも行動が変わります。
| 場面 | 被害者意識が強い状態 | 当事者意識が強い状態 |
|---|---|---|
| 新しい仕事を頼まれたとき | できない理由を探す | まずやってみようと、できる部分を探す |
| いまのやり方に不満があるとき | 不平や不満が多くなる | 改善の提案をする |
| リスクが見えたとき | 過敏に反応して、止まってしまう | リスクを受け止めたうえで、進め方を考える |
| 自分の力を超えそうなとき | やる前から諦める | 限界を超えて挑戦しようとする |
| 状況を変えたいとき | 他人や状況が変わるのを待つ | 自分から周りや状況を変えようと動く |
| 他の部署と組むとき | 連携をおっくうに感じる | 組織の壁を越えてチームをつくる |
表は「人」ではなく「状態」を並べたものです。同じ人でも、ある仕事では当事者意識が強く、別の仕事では被害者意識に傾く、ということは普通に起こります。私は、当事者意識を「ある人」「ない人」に分けて考えないようにしています。問題を個人の性格ではなく、その人が置かれている職場の状態として見る方が、次の一手が見つかりやすいかなと思います。
出典・制度の確認先
当事者意識の欠如はなぜ起きるのか
いまの職場には、誰もが感じるプレッシャーがあります。高すぎる業績目標、先の読みにくい社会の情勢、考え方や働き方の違う人とのコミュニケーション、デジタル化に伴う学び直し、残業を減らしながら成果を求められること。どれも、一人の力ではどうにもならないものです。
こうしたプレッシャーが重なると、人は次のように考え始めます。
- 「自分はこんなに頑張っているのに、なぜ誰も分かってくれないんだ」
- 「自分の考えていることは正しいはずだ」
そして、自分の考えにこだわり、殻に閉じこもってしまいます。ここで大事なのは、被害者意識は、怠けている人ではなく、頑張っている人ほど陥りやすいということかなと思います。頑張っているのに報われないと感じたとき、人は原因を外に求めます。
この状態の部下に、上司が「この前お願いした仕事、そろそろ手をつけてくれる?」と声をかけたとします。返ってくるのは、「言われなくても分かっています。でも、目の前の仕事を片付けないとできないでしょう」という言葉かもしれません。指示や指摘を重ねても、部下の中の優先順位は変わりません。
「当事者意識がない人」に見えるとき
上司から見て「当事者意識がない」と感じる部下にも、多くの場合、そうなった背景があります。よくあるのは、次の四つです。
- 任されている範囲がはっきりしない。 どこまで自分で決めてよいのか分からないと、人は動くのを控えます。
- 意見を言っても、何も変わらなかった経験がある。 提案が流され続けると、提案すること自体をやめてしまいます。
- 仕事の目的や全体像が見えていない。 自分の仕事が何につながっているのか分からないと、自分ごととして捉えにくくなります。
- プレッシャーが重なっている。 前の節で書いた状態です。
1つ目は、上司の側で手を打ちやすいところです。誰が決め、誰が実行し、誰に相談するのかを仕事ごとに書き出しておくと、部下は「ここまでは自分で決めてよい」と分かり、動き出しやすくなります。
部下を「当事者意識がない人」と決めつけると、部下はますます殻に閉じこもります。まずは、四つのどれが起きているのかを見る。それだけで、上司の声のかけ方が変わります。
当事者意識を持たせるには:被害者意識から抜け出す4つのステップ
「当事者意識を持たせる」とよく言いますが、当事者意識は外から渡せるものではありません。上司にできるのは、部下が自分で当事者意識を持てる状態をつくることです。セミナーでは、次の4つのステップで説明しています。
| ステップ | やること | 問いかけの例 |
|---|---|---|
| ① 部下の声を徹底的に聴く | 被害者意識を抱くようになった背景や経緯を、さえぎらずに聴く | 「機嫌が良くないみたいだけど、最近どう?」 |
| ② 自分の状態に気づいてもらう | 自分の口で話すことで、自分を冷静に見つめ直してもらう | 「いまの気持ちを話してみて、どう感じましたか?」 |
| ③ 周りへの影響を想像してもらう | 被害者意識のままでいると、どんなことが起きそうかを考えてもらう | 「いまの態度や言葉は、チームにどんな影響を与えていると思いますか?」 |
| ④ 自分が主役のストーリーを描く | 少しでもできることを、一緒に探す | 「この先を変えるために、今日からできることは何でしょう?」 |
順番には意味があります。①と②を飛ばして③から入ると、部下は責められていると受け取ります。まず聴き、本人が自分の状態に気づいてから、周りへの影響を一緒に考えます。
②がうまくいくのは、人は話しながら、自分自身の話を聴いているからです。頭の中で繰り返していた不満も、口に出してみると「少し言いすぎたかな」「自分にもできることがあったかもしれない」と見え方が変わります。
④で探す「できること」は、小さくて構いません。「明日の朝、〇〇さんに一度相談してみる」くらいの大きさで十分です。上司が答えを渡すのではなく、部下が自分で選ぶことが、当事者意識の出発点になります。
4つのステップの会話例(仮の例)
新しい業務の担当を頼んだところ、部下から「いまの人数では無理です」と返ってきた場面です。
- ① 上司「無理だと感じているんですね。いま、どんなことで手がいっぱいになっていますか?」
部下「いまのお客様の対応だけで、毎日ぎりぎりです。それなのに、新しい仕事ばかり増えて……」
- ② 上司「ここまで話してみて、どう感じましたか?」
部下「……誰にも分かってもらえない、と思っていたのかもしれません」
- ③ 上司「その気持ちのまま新しい仕事を断り続けると、チームにはどんなことが起きそうですか?」
部下「ほかの人に回って、そちらが苦しくなりますね」
- ④ 上司「では、この先を変えるために、今日からできることは何でしょう?」
部下「いまの対応で、やめられるものがないか洗い出してみます。そのあとで、新しい仕事の進め方を相談させてください」
この例で、上司は一度も答えを出していません。「やめられる仕事を洗い出す」は、部下が自分で決めた行動です。
自分ごとにする問いかけ:予測・算定・例え・類比
指示や指摘の代わりに使えるのが、相手が自分ごととして考える問いかけです。セミナーでは四つの型を紹介しています。
- 予測:起こりうる変化や影響を、将来に向けて想像してもらう 「このままの進め方だと、半年後にどんなことが起きそうですか?」
- 算定:影響を数字で見積もり、大きさに気づいてもらう 「この遅れは、お客様や売上に、どのくらいの影響がありそうですか?」
- 例え:たとえ話で、出来事を外から眺めてもらう 「もしあなたがこの部署の責任者だったら、まず何をしますか?」
- 類比:似た例と比べて、自分のこととして考えてもらう 「他の部署が、同じ課題に取り組み始めたそうです。あなたなら、どう進めますか?」
どの問いも、答えを渡していません。部下が自分の頭で将来や影響を考えると、「そろそろ手をつけて」と言われるより、優先順位が動きやすくなります。コンサルティングで経営者と向き合うときも、私は将来の姿を見てもらうことで、当事者として考えていただくことを大切にしています。
問いかけたあとは、答えを急がないことも大切です。部下が黙って考えているなら、それは自分ごととして考え始めている時間です。沈黙に耐えきれずに上司が答えを言ってしまうと、せっかくの問いが指示に戻ってしまいます。
当事者意識を下げてしまう、上司の関わり方
部下の当事者意識を育てたいと思っていても、上司の関わり方が逆の方向に働くことがあります。気をつけたいのは、大きく三つです。
一つ目は、「もっと当事者意識を持って」と言葉で求めること。 言われた部下は、責められていると受け取ります。被害者意識が強い状態の人ほど、「やっぱり分かってもらえない」と感じ、殻に閉じこもります。
二つ目は、任せたあとに細かく口を出すこと。 任された範囲の中で自分で決められないと、部下は「結局は上司が決める」と考えるようになります。任せた範囲は、決めることまで含めて任せます。
三つ目は、失敗を個人の責任だけにすること。 挑戦して失敗した人が責められる職場では、次から誰も手を挙げなくなります。失敗は、人ではなく仕事の進め方や仕組みの問題として振り返ります。
三つとも、上司に悪気があるわけではありません。早く成果を出したい、失敗させたくない、という気持ちから出ることが多いのかなと思います。
上司自身が当事者でいるために
会社員時代、倉庫の設計値を誤り、製品が入らない設備を納めてしまったことがあります。「人生詰んだと思ったところがスタート地点」という私の信条は、この失敗から来ています。
詰んだと感じる場面は、誰にでもあります。そのときに、状況や周りのせいにするのか、ここから何ができるかを考えるのか。被害者意識と当事者意識の分かれ目は、そこにあると私は考えています。
部下に当事者意識を求める前に、上司自身の言葉を見直すことも大切です。「上が決めたことだから」「人が足りないから」と上司が口にしていれば、部下も同じ言葉を使うようになります。「会社が〜してくれない」ではなく「私は〜したい」と、主語を自分に置いて話す。上司のその姿が、チームの当事者意識をつくっていきます。
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