怒ると叱るの違い
怒ると叱るの違いは、目的にあります。怒るは、自分の感情をそのまま相手にぶつけ、自分のストレスを発散すること。叱るは、相手の成長を目的に、至らない点をはっきり示して、次の行動を変えてもらうことです。
部下の叱り方に迷ったときは、「いま自分は、部下の成長のために話そうとしているか」と自分に問い直すと、どちらに傾いているかが見えてきます。職場での違いを並べると、次のようになります。
| 項目 | 怒る | 叱る |
|---|---|---|
| 目的 | 自分の感情を伝え、ストレスを発散する | 相手の成長を促し、行動を変えてもらう |
| 目を向けている先 | 過去の出来事と、自分の気持ち | これからの行動 |
| 伝える中身 | 「なぜできないんだ」という感情や、人柄への評価 | 何が起きたかという事実と、次にどうするか |
| 話す人 | 上司が一方的に話す | 上司が事実を伝え、部下の考えを聞く |
| 部下に残るもの | 萎縮や反発、「とにかく謝っておこう」という気持ち | 納得感と、次に何を変えるか |
怒ってしまったとき、部下は頭を下げてくれるかもしれません。けれど、納得しないまま謝っても、次の行動は変わりません。人の心が動かないと、組織も業績も変わらない、と私は考えています。叱る場面も同じで、目的は部下に謝らせることではなく、次の行動を変えてもらうことです。
叱っているつもりで、怒っていませんか
セミナーで使っている例を一つ紹介します。お客様からクレームが入り、上司が部下を呼んで、こう言います。
上司:「クライアントからクレームがきているぞ! あれだけ丁寧に対応しろと言ったのに……お前に脳みそは付いているのか?」
部下:「も、申し訳ございません……」(心の中では「本当は違うんだけど、スイッチが入ったら止まらないから黙っておこう」)
上司は叱っているつもりでも、この言葉には大きく三つの問題があります。
一つ目は、「クレームがきているぞ」だけでは、何が起きたのかが分からないこと。 どんなクレームなのかが具体的でないので、部下は何を叱られているのか納得できません。
二つ目は、「あれだけ丁寧に対応しろと言ったのに」の「丁寧な対応」が、上司と部下ですり合っていないこと。 上司の思う丁寧さと、部下の思う丁寧さが違ったまま叱っても、同じミスがまた起きます。
三つ目は、「お前に脳みそは付いているのか」が、部下の人格を否定していること。 一度こうした言葉を投げると、上司と部下の信頼関係は大きく損なわれます。人格を否定する言葉は、パワーハラスメントの例としても挙げられています(よくある質問で触れます)。
もう一つ見落とせないのが、部下が黙ってしまうことです。「本当は違う」という事情があっても、上司には届きません。叱る目的は次の行動を変えることなのに、怒ると、行動を変えるために必要な情報が入ってこなくなる。私は、ここが怒ることのいちばんの損失だと考えています。
指導とパワーハラスメントの違いについては、厚生労働省の「あかるい職場応援団」に考え方がまとめられています。叱り方に迷ったときは、社内の規程とあわせて確かめておくと安心です。
怒りはどこから来るのか|出来事・捉え方・感情
では、カッとなりそうなとき、感情をどう扱えばいいのでしょうか。手がかりになるのが、「出来事 → 捉え方 → 感情」という流れです。感情は、出来事から直接生まれるのではなく、その出来事をどう捉えたかから生まれます。
同じ「お客様からクレームが来た」という出来事でも、捉え方で感情は変わります。
- 捉え方A:「この前もミスしたから、また同じミスをしたのかも」→ 怒りがこみ上げて、カッとなる
- 捉え方B:「お客様と部下の間で、すれ違いが起きているのかも」→ 何が起きたかを確かめて、冷静に対処する
捉え方Aは、「この前もミスした」という過去の印象から、今回も部下のミスだと決めつけています。まだ事実を確かめていないのに、です。事実に基づかない思い込みが、うがった捉え方を生み、判断を狂わせます。出来事には表と裏があり、一方の見方だけで捉えると、冷静さを失いやすくなります。
叱る前には、紙やメモに「起きたこと(事実)」と「自分がそう思ったこと(捉え方)」を分けて書き出してみてください。「クレームが来た」は事実ですが、「また同じミスをした」はまだ捉え方です。分けて書くだけで、確かめるべきことが見えてきます。
感情をなくそうとしなくてかまいません。腹が立つのは自然なことです。大事なのは、その感情のまま部下の前に立たないことかなと思います。
部下を成長させる叱り方の5ステップ
部下の叱り方は、事実と相手の考えをつかんで、対処の方法を一緒に考える、という流れで進めます。セミナー資料の会話例をもとに、5つのステップを並べます。
| ステップ | やること | 会話の例(セミナー資料より) |
|---|---|---|
| ① 事実を伝える | 何が起きたかを具体的に伝える。感情や評価は入れない | 上司「お客様からクレームが来ているよ。プロジェクトの推進会議で前回と同じ内容を議論していて、プロジェクトが進んでいないんじゃないか、ということなんだ」 |
| ② 事実を確かめる | 部下から見た事実を聞く。上司が受け取った情報がすべてとは限らない | 上司「お客様はそう感じているけど、実際はどうなの?」/部下「同じ内容に聞こえたかもしれませんが、議論を深掘りしていました」 |
| ③ 考えを確かめる | なぜそうしたのか、部下の考えを聞く | 上司「どんな考えがあって、いまの進め方を決めたの?」/部下「上っ面の議論だけでは意味がないので、行動できるように具体策を決めていました」 |
| ④ フォローする | 部下の考えを受け止め、どこでずれたかを一緒に整理する | 上司「なるほど。お客様と君の考えがすり合わないまま進めていたんだね」/部下「そうですね。お客様と進め方の合意を取らずに進めていました。反省です」 |
| ⑤ 次への期待を込める | 良い点を認め、次にどうするかを期待とともに伝える | 上司「君の進め方の考えは間違っていないから、同じことが起きないようにしていこう」/部下「ありがとうございます。期待を裏切らないように進めます」 |
この会話で、上司が話しているのは①と⑤が中心です。②〜④は、ほとんど部下の話を聞いています。
①で感情ではなく事実から入るので、部下は身構えずに話を聞けます。②と③で部下の側の事実と考えを聞くと、「実は議論を深掘りしていた」という、上司が知らなかった事情が出てきます。そのうえで④では、上司が答えを言うのではなく、部下自身が「合意を取らずに進めていた」と気づいています。
⑤では、部下の考えの良かった点を認めてから、次に向けた期待を伝えています。最後を期待で締めると、部下は「否定された」ではなく「次はこうすればいい」と受け取りやすくなります。人柄ではなく行動について話し、最後は相手を信頼していることを伝える。この順番を守るだけでも、叱られた後の部下の受け止め方は変わってくるのかなと思います。
人から言われたことより、自分で気づいたことの方が、行動は変わりやすくなります。コンサルタントの仕事でも、こちらから提案したことは、相手が自分であまり考えていない分、なかなか実行されません。部下を叱る場面でも同じだと私は考えています。結果だけでなく、判断の根拠を聞いて振り返る関わり方は、後継者への権限移譲と育成|任せ方を変える最初の90日でも紹介しています。
部下が同じミスを繰り返すときの叱り方
同じミスが続くと、上司の方もつい語気が強くなります。ただ、繰り返されるミスには、叱り方より前に見直したいことが大きく二つあります。
一つ目は、指示の言葉が、行動のレベルですり合っているか。 「丁寧に」「しっかり」「早めに」といった言葉は、人によって思い浮かべる行動が違います。たとえば「丁寧な対応」を、「お客様からの問い合わせには当日中に一次回答する」「回答を送る前に、先輩に一度見てもらう」のように、確かめられる行動に直します(仮の例)。あいまいな目標を確かめられる形にする考え方は、KPIの設定方法|SMARTでも紹介しています。
二つ目は、仕事の仕組みに原因がないか。 手順が決まっていない、確認する人がいない、引き継ぎの資料がない。こうした状態では、誰が担当しても同じミスが起きます。同じミスが続くときは、部下個人の問題として叱る前に、仕事の進め方を一緒に見直す方が早いのかなと思います。
そして、叱った後は、次に同じ場面が来たときに行動を確かめ、できていたら言葉にして認めます。叱って終わりにせず、変わったところを見届けるまでが、叱ることの一部です。
叱られる側から考える
叱る側に立つと忘れがちですが、失敗した本人は、上司が思っている以上に落ち込んでいることがあります。
私自身も会社員時代、倉庫の設計値を誤り、製品が入らない設備を納めてしまったことがあります。そのときは「人生詰んだ」と思いました。それでも今は、詰んだと思ったところがスタート地点だった、と考えています。
失敗した直後の部下にとって、上司のひと言は、その失敗を「終わり」にも「出発点」にもします。叱る側の役割は、失敗を責めることではなく、次の行動を変える出発点にすることです。
whymeの人材開発では、実際の部下との関わりを題材に、コーチングで振り返りながらマネジメントの実践力を高めるプログラムをご用意しています(人材開発・企業研修)。
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