クレーム対応の基本

クレーム対応のコツは、相手の不満が小さいうちに受け止め、早くお詫びし、最後まで話を聴いてから、事実と対策を伝えることです。クレーム対応の基本は、この順番を崩さないことにあります。

この記事では、店頭やコールセンターではなく、取引先やプロジェクトのクライアントから寄せられるクレームを想定しています。相手とは、この先も一緒に仕事を続けていく関係です。その場を収めるだけでなく、関係そのものを立て直すところまでが、クレーム対応だと考えてください。

取引先とのクレームの多くは、最初はほんの小さなすれ違いから始まります。報告が少し遅れた。頼まれた資料の形が、相手の想定と違った。打ち合わせで出た質問に、その場で答えられなかった。一つひとつは小さくても、そのままにしておくと相手の不満は少しずつ積み重なり、あるとき沸点を超えて、大きなクレームとして表に出ます。

同じようなすれ違いがあっても、クレームに発展するプロジェクトと、しないプロジェクトがあります。違いは、すれ違いをその場で拾い、小さな火種のうちに解決できているかどうかです。

私は、クレームはそれまでの関係の積み重ねの結果だと考えています。だからこそ、起きてからの対応と同じくらい、起きる前のふだんのやりとりが大事になります。

クレームの前兆を見逃さない:ハインリッヒの法則

労働災害の分野で知られる考え方に、「ハインリッヒの法則」があります。1件の重大な事故の背後には、多くの軽い事故があり、さらにその背後には、事故にならなかった多くの「ヒヤリハット」がある、という経験則です。

クレームにも、同じ形が当てはまります。

  • ヒヤリハット:「これって大丈夫ですか?」
  • 軽いクレーム:「これから気を付けてくださいね」
  • 重大なクレーム:「どうなっているんですか!」

重大なクレームが出たときには、その前に、軽い言葉のサインがいくつも出ていたはずです。「大丈夫ですか?」と聞かれたとき、「大丈夫です」と答えて終わりにせず、何が気になったのかを聞き返す。それだけで、防げるクレームは少なくありません。

取引先との仕事では、言葉以外のサインもあります。メールの返信が短くなる。確認の連絡が細かく、回数も増える。打ち合わせに、相手の上の立場の人が急に出てくるようになる。どれも、相手がこちらの仕事に不安を感じ始めているサインかもしれません。

私は、クレームの分かれ目は、最初の「大丈夫ですか?」の段階で手を打てるかどうかにあるのかなと思います。相手が軽い言葉で伝えてくれているうちは、まだこちらを信頼してくれている段階でもあるからです。

クレーム対応の流れ:6つのステップ

クレームが起きたときの対応は、次の6つのステップで進めます。

クレーム対応の6つのステップ
ステップやること気をつけたいこと
① お詫び相手に不快な思いをさせたことに対して、真摯にお詫びする仮に相手の誤解やミスが原因でも、まずは相手に落ち着いてもらうことを優先する
② 傾聴相手の気が済むまで、話を聴く相づちを打ちながら、真剣に聴いていることを伝える
③ 事実確認何が起きたのかを確かめ、相手を不快にさせている原因を特定する起きたことと、相手の受け止め方を分けて聞く
④ 対応策の報告原因が分かったら社内で対応策を考え、相手に伝える時間がかかるときは、こまめに途中経過を伝える
⑤ お詫びと感謝あらためてお詫びし、指摘してもらったことに感謝を伝える指摘のおかげで、見えていなかったリスクに気づけたことを伝える
⑥ 社内への展開原因と対応策を社内で共有し、再発を防ぐ担当者だけの話で終わらせない

①のお詫びは、こちらの非をすべて認めることとは違います。お詫びするのは、相手に不快な思いや手間をかけさせたことに対してです。どこに原因があったのかは、③の事実確認で確かめてから話します。

②の傾聴では、相手の話を聴き終えたら、「〇〇の件で、ご報告が遅れたことにご不満を感じていらっしゃる、ということで合っていますか」のように、要点を言葉にして返します。こちらが正しく受け止めたかを確かめると同時に、相手にも「聴いてもらえた」と感じてもらえます。

④で時間がかかるときに大事なのが、途中経過の連絡です。「原因を調べています。明日の15時までに、いったん状況をご連絡します」のように、次にいつ何を伝えるかを先に約束しておくと、相手の不安は膨らみにくくなります。誰がクレームを受け、誰が対応策を決めるのかは、ふだんから決めておくと迷いません(RACI図とは?責任と権限の決め方)。

⑤には、もう一つの意味があります。顧客対応の研究で知られるジョン・グッドマン氏の名前をとった「グッドマンの法則」では、クレームに真摯に対応することが、その後の取引の継続や、好意的な評判につながるとされています。クレームは、対応しだいで、信頼を取り戻す機会にもなります。

クレームの謝罪と初動:1社ずつかけた電話

クレームの対応で、いちばん差が出るのは初動です。

私は会社員時代、IR資料で重大な数字を間違えたことがあります。そのとき、資料の配布先に1社ずつ電話をかけて、お詫びしました。

ミスを自分から相手に伝えるのは、怖いものです。それでも、相手が先に気づいてから謝るのと、こちらから知らせて謝るのとでは、受け取られ方が違うかなと思います。この失敗は、私が大事にしている「人生詰んだと思ったところがスタート地点」という考え方の原点の一つでもあります。

謝罪の初動で気をつけたいことは、四つです。

  1. 早く伝える。 原因がすべて分かるまで待たず、分かっていることと、まだ分かっていないことを分けて、先に伝えます。
  2. 何に対するお詫びかを具体的にする。 「このたびはご迷惑をおかけしました」だけでは、相手には、こちらが何を分かっているのかが伝わりません。仮の例ですが、「先週の報告書の提出が遅れ、社内でのご説明に支障が出てしまったと思います。申し訳ありません」のように、相手が困ったことを言葉にしてお詫びします。
  3. 言い訳から入らない。 事情の説明は、お詫びと傾聴の後にします。最初に事情を話すと、相手には言い訳に聞こえます。
  4. 次の連絡を約束する。 「いつまでに、何をお伝えするか」を決めて伝えます。謝罪の電話は、それで終わりではなく、対応の始まりです。

クレーム対応でやってはいけない三つのこと

クレーム対応でやってはいけないことは、大きく三つあります。

一つ目は、相手の意見を否定したり、反論したりすること。 こちらに言い分があっても、最初に伝えると、相手は「話を聞いてもらえない」と感じます。

二つ目は、相手の話を途中でさえぎること。 要点が分かったつもりでも、相手が話し終わるまで待ちます。

三つ目は、対応策の検討に長い時間をかけたり、担当を次々に替えて、たらい回しにしたりすること。 待たされるほど、相手の不満は大きくなります。

言葉にすると当たり前ですが、焦っているときほど、つい口から出てしまう一言があります。仮の例で、言い換えを並べてみます。

クレーム対応でつい言ってしまう一言と言い換えの例
ついやってしまう一言言い換えの例
「弊社の状況もご理解ください」「ご迷惑をおかけして、申し訳ありません。まず、状況を詳しくお聞かせいただけますか」
「弊社の見解も聴いていただけますか」「お話をうかがったうえで、こちらで事実を確かめ、あらためてご説明します」
「それは担当が違いますので」「私が責任を持って担当者につなぎ、本日中にご連絡します」

反論したくなるのは、こちらにも言い分があるときです。言い分そのものが間違っているとは限りません。ただ、それを伝えるのは③の事実確認の後で十分です。順番を守るだけで、同じ説明でも相手の受け取り方は変わります。

私は、三つのどれも、相手を軽んじているから起きるのではなく、早く収めたいという焦りから起きることが多いと見ています。焦ったときほど、話す前に一度聴く。それを意識しておくだけで、避けられる一言は多いはずです。

一方で、暴言や威圧、度を越えた要求が続く場合は、通常のクレームとは分けて考えます。担当者一人で抱え込まず、会社として対応の線引きを決めておくことが大切です。厚生労働省の「あかるい職場応援団」に、カスタマーハラスメント対策の企業事例がまとめられています。

クレーム対応が上手い人がしていること

クレーム対応が上手い人は、話し方が特別にうまいわけではありません。共通しているのは、次の四つのことを、ふだんから当たり前にやっていることです。

  • 火種のうちに拾う。 定例会の最後に「何か気になっていることはありませんか」と一言聞く。相手が小さな不満を言いやすい場を、自分からつくっています。
  • 事実と気持ちを分けて聴く。 「何が起きたか」と「相手がどう感じたか」を分けて受け止めるので、感情的なやりとりに巻き込まれにくくなります。
  • 途中経過をこまめに伝える。 解決していなくても、進み具合を伝えるだけで、相手は待てるようになります。
  • 一人で抱えず、組織で受ける。 自分だけで収めようとせず、上司や関係者に早く共有し、⑥の社内展開までつなげます。

最後の社内展開は、仕組みにしておかないと、担当者の反省で終わってしまいます。再発防止策も、決めて終わりではありません。誰がいつまでに何をするかに落とし、実行を追いかける。考え方は、事業計画の作り方と実行管理と同じです。起きたことを次の一手につなげる方法は、振り返りのフレームワーク(第1弾・未作成)で詳しく書きます。

私は、クレームへの対応は、相手との信頼を取り戻す仕事であると同時に、自分たちの仕事の進め方を見直す機会だと考えています。お詫びをして終わりではありません。指摘を受けて仕事の進め方が変わったところまで見届けて、初めて対応が終わります。