認知バイアスとは

認知バイアスとは、思い込みや周りの空気に引っぱられて、筋の通らない判断をしてしまう心の働きです。この記事では、仕事で起きやすい認知バイアスの例を一覧にして紹介します。代表的なものに、自分に都合のよい情報ばかり集める「確証バイアス」や、最初に見た数字に判断が引きずられる「アンカリング」があります。あわせて、どうすれば判断の質を上げられるかを考えます。

認知バイアスについては、大きく三つの前提を押さえておくと、扱い方が見えてきます。

  1. バイアスには傾向があり、型に分けられる。 人の判断を惑わすものですが、出方にはパターンがあります。
  2. 人の認知には限界があり、バイアスを一人で乗り越えるのは難しい。 「気をつけよう」と思うだけでは防げません。
  3. 組織の仕組み次第で、バイアスは抑えられもするし、強まりもする。 バイアスに無自覚な組織では、個人の思い込みが会議を通るたびに大きくなります。

経営の意思決定と認知バイアスの関係を整理した本に、オリヴィエ・シボニー『賢い人がなぜ決断を誤るのか?』(日経BP、2021年)があります。シボニーは、経営判断をゆがめるバイアスを、パターン認識、行動、惰性、利益、社会的なものの五つの系統に分けて整理しています。この記事では、その考え方を参考にしながら、仕事の場面で特に出会いやすいものに絞って紹介します。

賢いリーダーでも、なぜ判断を誤るのか

シボニーの本には、経験も実績もあるリーダーが判断を誤った例がいくつも出てきます。たとえば、次のような場面です。

  • 見通しの甘い設備投資の計画を立てて実行し、費用が予算を大きく超え、財務を傷めてしまった
  • 専門家から「買収価格が高すぎる」と指摘されたのに、そのまま買収を進め、株主の価値を下げてしまった
  • 経歴も実績も申し分ない人を幹部に迎えたが、社内の信頼を得られず、組織が揺らいでしまった

どれも、判断した人の能力が低かったわけではありません。むしろ、経験が豊かな人ほど「前もこうだった」と過去のパターンに当てはめるのが速く、自信もあります。周りも、実績のある人の判断には異を唱えにくい。賢さや経験が、かえって思い込みを強めてしまうことがあるのかなと思います。

私がコンサルタントとして多くの会社の判断に関わってきて感じるのは、判断を誤った理由を「あの人の判断ミス」で片づけると、同じことが繰り返されるということです。問題は個人より、その判断がどんな流れで下されたかにあると私は考えています。

認知バイアスの種類と例|仕事で起きやすい六つ

認知バイアスは数多く知られていますが、すべてを覚えなくてもかまいません。仕事の判断でよく顔を出すものを、六つに絞って一覧にしました。

仕事で起きやすい認知バイアスの一覧(例はすべて仮の例です)

仕事で起きやすい認知バイアスと仮の例
バイアスどんな思い込みか仕事での仮の例
確証バイアス自分の考えに合う情報ばかり集め、合わない情報を軽く見る新商品はいけると考えている担当者が、好意的な顧客の声だけを報告資料に載せる
正常性バイアス異変が起きても「たいしたことはない」「いつものことだ」と受け止める主要な取引先からの注文が三か月続けて減っているのに、「一時的なものだろう」と様子を見続ける
楽観のバイアス(計画の錯誤)自分たちの計画は、思ったとおりに進むと見積もるシステムの入れ替えで、過去に何度も遅れているのに、今回も最短の日程で計画を組む
アンカリング最初に示された数字や案に、その後の判断が引きずられる前年の予算額を出発点に議論し、事業の状況が変わっても、ほぼ同じ額で予算が決まる
サンクコストの誤りすでに使ったお金や時間を惜しんで、やめる判断ができない「ここまで2年かけたのだから」と、成果の見えない新規事業を続ける
集団浅慮(集団思考)集団の和を優先し、異論が出ないまま極端な結論に進む社長が乗り気の案に、会議の誰も反対を口にせず、そのまま承認される

一覧を眺めると、どれも「自分は大丈夫」と思いがちなものばかりです。

とくに注意したいのは、いくつかのバイアスが重なる場面です。たとえば、楽観的な計画で始めた事業がうまくいかず(楽観のバイアス)、それでも投じた費用を惜しんで続け(サンクコストの誤り)、会議では誰も止めようと言わない(集団浅慮)。一つひとつは小さな思い込みでも、重なると大きな損失につながります。

私は、バイアスの名前を覚えることより、自分たちがどの場面でどのバイアスに引っかかりやすいかを知っておく方が役に立つと考えています。予算を決める時期にはアンカリング、新規事業を見直す時期にはサンクコストの誤り、というように、判断の種類とバイアスを結びつけておくと、会議の前に「今回はこれに気をつけよう」と確かめられます。

思い込みはどこから生まれるのか|根拠と推論のずれ

思い込みによるバイアスは、多くの場合、間違った根拠や推論から生まれます。主張(思い込み)、根拠、推論の三つに分けると、どこがずれているかが見えてきます。

  • 主張:「Aさんはプロジェクトマネージャーに適任だ」
  • 根拠:「Aさんはスタッフからの評判がよく、人望が厚い」
  • 推論:「プロジェクトマネージャーには人望が求められる」

人望は大切ですが、プロジェクトマネージャーには、段取りを組む力や、関係者と交渉する力も求められます。「人望がある=適任」という推論は、ほかの条件を見落としています。

推論でとくに多いのが、原因と結果のつながり(因果関係)の読み違いです。大きく三つの型があります。

  1. 因果関係を逆に読む。 猛暑だからエアコンが売れるのであって、エアコンが増えたから猛暑になるわけではありません。
  2. たまたま一緒に動いているだけのものを、因果関係と取り違える。 気温が上がると、アイスクリームの売上も水の事故も増えますが、アイスクリームと水の事故に関係はありません。
  3. 特定の原因だけに目を向ける。 人口が減る理由を少子化だけに絞り、ほかの理由に目をつぶってしまう、といった具合です。

仕事に置き換えると、「研修を受けた社員の業績がいいから、研修の効果だ」と考える場面が当てはまります(仮の例)。もともと意欲の高い社員が研修に手を挙げていただけ、ということもあり得ます。思い込みに気づくには、主張の前に「根拠は何か」「その根拠から、本当にそう言えるか」を確かめることです。

私は、思い込みそのものを責めるより、主張・根拠・推論を言葉にして並べてみることが大事だと考えています。頭の中だけで考えていると筋が通って見えても、書き出してみると、本人もずれに気づきやすくなります。

良い判断とは、正しいプロセスで下された判断

シボニーの本の中心にあるのは、「組織は意思決定の進め方を変えることで、判断の質を上げられる。変えるべきは意思決定者ではなく、そのプロセスだ」という考え方です。

判断の質を上げるには、二つの面から整えます。

  • 協働:立場や見方の違う人が判断に加わり、賛成も反対も安心して口にでき、対話を通じてより良い判断にたどり着ける状態
  • プロセス:最終的に決める人、判断の基準、段階を踏んだ承認の手順がはっきりしていて、バイアスを減らせる仕組み

重い判断の前に、次の四つの問いで進め方を確かめてみてください(セミナー資料の問いを、投資以外の判断にも使える形に直しました)。

  • チャンスだけでなく、リスクや不確かな点についても話し合ったか
  • 経営幹部の意見と反対の見方を、発言しやすい場になっていたか
  • うまくいく根拠だけでなく、失敗しそうな材料もあえて探したか
  • 判断の基準は検討を始める前に決めてあり、参加者全員に見えていたか

この問いは、会議の最後ではなく最初に共有しておくと効きます。結論が見えてから問いを投げても、「いまさら」となりがちだからです。

四つの問いに共通するのは、「この案を通すこと」から「本来の目的を達成できるかどうか」へ、議論の焦点を切り替えることです。誰が何を決めるのかを整理するにはRACI図とは?責任と権限の決め方、計画づくりの体制は事業計画の策定体制とは?プロジェクトの進め方と、失敗しやすい6つの型も参考にしてください。

多数決にすればいい、は誤解

意思決定のプロセスを整えようとすると、「では、みんなで多数決で決めよう」という話になりがちです。ただ、多数決にすると、判断の責任者があいまいになり、負けた側との間に溝が残って、組織が割れかねません。

意思決定は、参加者の協働をもとに、最終責任者が下すものです。プロセスを整える目的は、全員の意見を平等に数えることではなく、バイアスを減らすことにあります。反対意見を出しやすくし、失敗の材料も集めたうえで、決める人が決める。この役割分担がはっきりしている方が、参加者の納得感も生まれやすいのかなと思います。

判断の材料を集める場面では、AIも役に立ちます。whymeでも事業計画を支えるAI(グロース・ナビ)を作っていますが、私は、AIは判断材料をそろえる道具であり、考え方と判断は人が持つものだと考えています。反対の材料を探させたり、見落としている論点を挙げさせたりするのはAIに任せられます。けれど、何を大事にして決めるのか、最後に決めて責任を持つのは人です。

会議での判断の進め方を、管理職や幹部のチームで見直したい場合は、人材開発・企業研修の研修テーマもご覧ください。