緊急度と重要度のマトリクスとは

緊急度と重要度のマトリクスとは、仕事を「重要かどうか」と「急ぎかどうか」の二つの軸で四つの領域に分け、どこに時間を使うかを考える方法です。スティーブン・R・コヴィーの『7つの習慣』(日本語版は『完訳 7つの習慣 人格主義の回復』キングベアー出版)で「時間管理のマトリックス」として紹介され、広く知られるようになりました。アイゼンハワー・マトリクスと呼ばれることもあります。

四つの領域を、仕事の例と合わせて並べると、次のようになります。

緊急度と重要度のマトリクスの4つの領域
領域中身仕事の例
A:重要で緊急放っておけない、いま向き合うべき課題お客様からのクレーム対応、自然災害や外部環境の急変への対応、故障した設備への対応、月次の経営会議の準備
B:重要だが緊急ではない将来の成果を左右する、質の高い仕事新しい事業やサービスの企画、ビジョンの見直しと社員への落とし込み、次のリーダーや若手の育成、取引先の被災に備えた調達の見直し
C:重要ではないが緊急急ぎに見えるだけの、見せかけの仕事思いつきで頼まれた会議資料、差し迫ってはいるが大事ではない問題、目的のはっきりしない会食
D:重要でも緊急でもないやめてもよい、無駄な仕事何に使うか分からない会議資料、チェック待ちの手待ち時間、とりとめのない長電話、IT化できる定型業務

Aは誰でも優先します。Dはやめた方がいいと誰もが分かっています。迷いが生まれるのは、BとCです。Cは「急ぎ」という顔をしているので、手をつけると仕事をした気になります。一方でBは、今日やらなくても誰にも困られないので、後回しにされます。

私は、このマトリクスを「仕事を四つに分ける道具」というより、「B領域の仕事に、時間をどれだけ取り戻せているかを確かめる道具」として使うのがいいのかなと思っています。

緊急度と重要度、どちらを優先する?

よく聞かれるのが、「緊急度と重要度、どちらを優先すればいいのか」という問いです。答えは、緊急で重要な仕事(A)はまず片づける、そのうえで重要度を優先する、です。

ただ、現場ではこの順番が崩れやすくなります。理由は大きく二つあります。

一つ目は、「やるべき仕事」が「やりたい仕事」を押し出すことです。 仕事には、業務の決まりで決められた仕事、ルーティンの仕事、上司からの突発的な依頼のような「やるべき仕事」と、自分の意志で選んだ仕事、自分で企画した仕事、改善したいと申し出た仕事のような「やりたい仕事」があります。B領域の仕事の多くは、後者です。やるべき仕事が増えると、やりたい仕事に回す時間がなくなります。

二つ目は、未完了のタスクが積み上がると、気持ちが下がることです。 やるべき仕事が増え、終わらないタスクが積み上がると、モチベーションが下がります。気持ちに余裕がなくなると、じっくり考える必要があるB領域の仕事にはますます手がつきません。

そこで考えたいのが、タイムマネジメントの捉え方です。時間は誰にとっても一日24時間で、増やすことはできません。管理できるのは、時間ではなく、仕事とその目的です。タイムマネジメントは、言い換えれば「タスクマネジメント」だと私は考えています。何のための仕事かを確かめ、やる仕事とやらない仕事を選ぶ。そこから始めると、優先順位の話が具体的になります。

B領域の時間は、やめる仕事から生まれる

B領域に時間を割くには、まず時間を捻出しなければなりません。手順は二つです。

B領域の時間をつくる手順(仮の例)
手順やること例
STOP(やめる)目的を失った仕事をやめる、減らす誰も読んでいない会議資料をやめる・簡単にする/形だけになった会議や仕事、プロジェクトを止める/成果が出なくなった施策や改善活動を止める
MOVE(移す)自分でなくてもよい仕事を移すルーティンになった業務を部下に任せる/業務を標準化して自動化する/部署の役割を見直し、中心ではない業務を移す

私は会社員時代、豊田自動織機で物流エンジニアリングのSE、事業管理、業務改善に携わりました。その後、コンサルタントとして15年以上、40社以上・延べ100件以上のプロジェクトを支援してきました。業務を整理するとき、私はまず「この仕事をやめましょう」というところから始めます。新しい取り組みを足すのは、その後です。

STOPから始めるのには理由があります。やめる仕事を決めずに新しいことを足すと、やるべき仕事がさらに増え、B領域の仕事がまた後回しになるからです。会議を一つやめる、報告書を一枚減らす。それくらいの小さなことで構いません。一つやめると、「ほかにもやめられるものがあるのでは」と周りが気づき始めます。

なお、MOVEで部下に仕事を任せるときは、渡しっぱなしにしないことが大切です。任せ方については、後継者への権限移譲と育成|任せ方を変える最初の90日でも詳しく書いています。

仕事の優先順位が部下に伝わらない

自分の時間の使い方が見えてきても、部下の時間の使い方は別の問題です。管理職の方からは、次のような声をよく聞きます。

  • 「忙しい、忙しい」と言うわりに、いまやる必要のない仕事をしている
  • こちらが頼んだ仕事よりも、ほかの人から頼まれた仕事を優先している
  • 目の前の仕事に追われて、中長期の取り組みが後回しになっている
  • その結果、じっくり考える必要がある中長期の取り組みが「やっつけ仕事」になっている

ここで上司がやりがちなのが、催促です。

上司:「この前お願いした仕事なんだけど、そろそろ手をつけてくれる?」

部下:「言われなくても分かっていますよ。でも、目の前の仕事を片づけないとできないじゃないですか」

部下は、その仕事が大事だということを分かっています。分かっているのに、手がつかない。指示や指摘、依頼を重ねても、部下の頭の中の優先順位は変わりません。むしろ、「分かっているのに言われる」ことへの反発が残ります。

「あの人は優先順位をつけられない人だ」と見えるときも、多くの場合、能力の問題ではないと私は考えています。B領域の仕事は、放っておいても明日すぐに困ることはありません。その仕事が、会社や本人にとってどれだけ大事かが見えていないから、目の前のC領域の仕事に引っ張られるのかなと思います。

仕事の優先順位を部下に伝える4つの問い

優先順位を引き上げるには、部下がその仕事を自分ごととして考えられるようにすることです。セミナーでは、次の4つの問いかけを紹介しています。

仕事の優先順位を部下に伝える4つの問い
問いねらい問いかけの例(仮の例)
① 予測起こりうる変化や影響など、「将来」を想像してもらう「先週、競合から新製品が出ていたけど、このままの開発の速さだと、当社にどんな影響があるかな?」
② 算定影響を数字にして、「大きさ」に気づいてもらう「原材料の価格が上がっているけど、当社の利益には、どれくらいの金額で響いていると思う?」
③ 例え例え話を通じて、「客観的」に捉えてもらう「例えば、あなたが経営者だったら、いまの状況でどんな手を打つだろう?」
④ 類比よく似た例と比べて、「自分ごと」として考えてもらう「同業の会社がDXの専任部署を立ち上げたそうだけど、ITを担当しているあなたなら、どうする?」

どの問いも、上司が答えを言いません。「この仕事は大事だから早くやって」と伝える代わりに、なぜ大事なのかを部下自身に考えてもらいます。

私がこれまでコンサルタントとして感じてきたのは、人から提案されたことは、本人があまり考えていないので、なかなか実行されないということです。優先順位も同じです。上司が決めた順番は、次の突発的な依頼が来るとすぐに崩れます。部下が自分で「これは大事だ」と腹落ちした順番は、崩れにくくなります。一番大事なのは、主語を部下自身に置いてもらうことです。当事者意識の育て方は、当事者意識とは?で詳しく書いています。

答えを渡さずに問いかける関わり方は、コーチングそのものです。教える場面との使い分けは、コーチングとティーチングの違いをご覧ください。

優先順位を、定期的に見直す

優先順位は、一度決めたら終わりではありません。お客様の状況も、社内の事情も変わります。決めた順番を、定期的に見直す場をつくることが大切です。

続けるうえで、私が大事だと考えていることは三つです。

  1. B領域の仕事を、予定に先に入れる。 空いた時間にやろうとすると、B領域の仕事はいつまでも始まりません。週に一度、短い時間でも先に確保します。
  2. やめた仕事も振り返る。 やめたことで困ったことはあったか、なかったか。困らなかったなら、ほかにもやめられる仕事があるかもしれません。
  3. 1on1で、部下の仕事の棚卸しを一緒にする。 部下の手元の仕事を四つの領域に分けてもらい、「この中で、半年後のあなたにとって一番大事なのはどれですか?」と聞いてみてください。1on1ミーティングとは?の進め方と組み合わせると、話が散らかりにくくなります。

振り返りの頻度を上げる考え方は、PDCAは古い?でも紹介しています。B領域の仕事を行動の計画に落とすときは、アクションプランとは?書き方と作り方も参考にしてください。

whymeの人材開発・企業研修では、担当している仕事や部下との関わりを題材に、何をやめ、何に時間を使うかを、コーチングで振り返りながら実践します。