部下指導がうまくいかないとき、起きていること
部下指導のコツは、伝え方を一つに決めず、「指示」「要望」「提案」を使い分けることです。指示は部下にやってもらうことを伝える方法、要望と提案は、受けるかどうかを部下が選べる伝え方です。三つを区別するだけで、「言ったのに動かない」というすれ違いを減らしやすくなります。
管理職の方からは、こんな声をよく聞きます。
- 「今年こそ目標を達成します」と言っていたのに、結果は未達だった
- 1週間前の会議でやることを伝えたのに、何も進んでいない
- 要件をきちんと決めたはずなのに、出てきたものが違う
- この前教えたはずなのに、また同じミスをしている
どれも、上司は「伝えた」と思っていて、部下は「聞いた」だけ、という状態です。すれ違いが起きる理由は、大きく三つあります。
一つ目は、目的と背景が伝わっていないこと。 何をやるかは伝わっていても、なぜやるのか、どこで使われるのかが分からないと、部下は自分なりの解釈で進めます。二つ目は、理解したかを確かめていないこと。 「分かりました」という返事は、分かったことの証拠にはなりません。三つ目は、指示なのか、お願いなのかがあいまいなこと。 部下にとって、断ってよい話なのか、やらなければいけない話なのかが分からないと、動き出しが遅れます。
部下が動かないとき、部下の意欲や力の問題に見えがちです。ただ、私がこれまで見てきた職場では、伝え方の側に原因があることも少なくないのかなと思います。問題を個人の性格に求める前に、まず伝え方を見直してみてください。
なお、業務上必要で相当な範囲の指導は、パワーハラスメントには当たらないとされています。指導との線引きは、厚生労働省の「あかるい職場応援団」で確かめられます(よくある質問でも触れます)。
部下指導の3つの伝え方:指示・要望・提案
三つの伝え方の違いを並べると、次のようになります。
| 項目 | 指示する | 要望する | 提案する |
|---|---|---|---|
| 決めるのは | 上司(やること自体は決まっている) | 部下(受けるかどうかを選べる) | 部下(受けるかどうかを選べる) |
| 向いている場面 | 期限や品質が決まっている仕事、急ぎの仕事 | 部下に役割や成長を期待するとき | 新しい挑戦をすすめるとき |
| 言い方の例 | 「明日17時までに、プロジェクトの進捗報告書を作ってもらえますか。目的は〜で、具体的には〜です」 | 「あなたは周りから信頼されているので、来年には課長になってほしいと思っています。だから今回は、実質的なプロジェクトの取りまとめ役を担ってほしい」 | 「一つ提案なんだけど、今度の商談でプレゼンをしてみない?力はついてきているし、そろそろいい頃だと思って」 |
| 伝えるときの要点 | 目的と頼む理由、5W1H、次の仕事、理解の確認 | 認める言葉と期待、短くまっすぐ、繰り返す | 許可をとる、タイミング、ストーリーで |
特に混ざりやすいのが、指示と要望です。上司は「お願い」のつもりで言っていても、部下には断れない指示に聞こえることがあります。反対に、上司は指示のつもりでも、言い方が柔らかすぎて、部下には「余裕があればやればいい話」に聞こえることもあります。
どの伝え方を選ぶかは、部下がその仕事にどれだけ慣れているかでも変わります。初めての仕事なら指示、慣れてきたら要望や提案、という流れです。部下の成熟度に合わせて関わり方を変える考え方は、SL理論とは?部下の成熟度で変える4つの関わり方(第2弾・未作成)で詳しく書きます。
私は、要望と提案が持つ「部下が選べる」という点を大事にしたいと考えています。人から与えられたことには、心の中で反発が起きやすいからです。全部を指示で伝えるより、選ぶ余地のある伝え方を混ぜた方が、部下は自分ごととして動きやすくなります。
部下への指示の出し方:4つのポイント
指示は、上司がいちばんよく使う伝え方です。指示の出し方のポイントは四つあります。
① 目的と、「あなたに頼む理由」を添える。 「何のための仕事か」に加えて、「なぜあなたに頼むのか」も伝えます。理由が分かると、部下は自分で判断できる範囲が広がります。
② 5W1Hで伝え、つまずきそうなところを先に洗い出す。 誰に向けて、いつまでに、どこまでやるのか。具体的に伝えるほど、部下の理解が深まり、途中で起きそうな問題も見えてきます。
③ 終わった後に控えている仕事も伝える。 その仕事の結果が、次に誰のどの仕事につながるのかが分かると、部下は仕上がりの水準を自分で決めやすくなります。
④ 最後に「まず今日、何から手をつけますか?」と聞く。 「分かりましたか?」ではなく、最初の行動を部下の言葉で話してもらいます。答えを聞けば、理解の深さが分かります。
四つを入れると、指示は次のように変わります(仮の例)。
| 項目 | よくある指示 | 四つを入れた指示 |
|---|---|---|
| 言い方 | 「来週の会議の資料、作っておいて」 | 「来週の会議で、新しい取引先と進めるかどうかを部長に決めてもらいます。取引先とのやりとりをいちばん知っているので、あなたにお願いしたい。木曜の夕方までに、比べる材料を3枚ほどにまとめてもらえますか。会議の後は、決まった内容で取引先に返事をする流れです。まず今日、何から手をつけますか?」 |
| 部下に伝わること | 作るものだけ | 目的、頼む理由、期限と量、次の仕事 |
言葉は長くなりますが、後で手直しする時間を考えると、最初に伝える方が、上司にとっても部下にとっても早く済みます。
①と③が抜けたときに何が起きるかは、私自身も経験があります。whymeでAIのツールを開発し始めた頃、最初はエンジニアを雇って作ってもらっていました。ところが、業務の流れがうまく伝わらず、手直しばかりが増えていきました。事業分析や財務、相続税の考え方まで説明する方が時間がかかる。それなら自分で作った方が早いと考え、自分で開発するようになりました。
振り返ると、頼んでいたのは「何を作るか」で、その機能が業務の流れの中でどう使われるのかまでは、伝えきれていなかったのかなと思います。専門性の高い領域だったので、私の場合は自分で作る道を選びました。ただ、管理職が部下に対して「自分でやった方が早い」を繰り返すと、部下が仕事を覚える機会がなくなります。
AIに仕事を頼むときにも、同じことを感じています。いきなり「これをやれ」と指示すると、たいてい変なものが出てきます。目的と必要な情報をきちんと渡せば、良いものが出てくる。人への指示も、根っこは同じです。
部下が動かないときは「要望」で伝える
指示を出しても部下が動かない、あるいは言われたことしかしない。そうしたときは、伝え方を「要望」に変えてみるのも一つの方法です。要望の伝え方のポイントは四つあります。
- 要望は、相手に選ぶ権利がある。 指示と混同しやすいので、「これは要望です」と区別して伝えます。
- 相手を認める言葉と、期待を添える。 「あなたは〜だから」と、相手のどこを見て頼んでいるのかを伝えます。
- 短く、まっすぐ伝える。 遠回しな言い方や前置きが長いと、何を求められているのかが伝わりません。
- 習慣にしてほしいことは、納得してもらえるまで繰り返す。 一度伝えただけで行動が変わることは多くありません。
要望は、断られることもあります。それで構いません。上司と部下の意見が違うのは健全なことで、全部が一致している方がむしろ心配です。断られたときは、「どこが引っかかっていますか?」と聞いてみてください。部下が何を大事にしているのかが見えてきます。部下が自分ごととして動くための関わり方は、当事者意識とは?でも紹介しています。
提案は、許可とタイミングとストーリーで
提案も要望と同じく、受け入れるかどうかは相手が決めます。ポイントは三つです。
一つ目は、許可をとってから提案すること。 「一つ提案してもいいですか?」と最初に聞きます。いきなり提案されると、部下は身構えてしまいます。
二つ目は、タイミングを選ぶこと。 部下が忙しい最中や、失敗した直後に提案しても、受け取る余裕はありません。部下が少し落ち着いたとき、手応えを感じているときの方が届きやすくなります。
三つ目は、正論ではなくストーリーで伝えること。 提案の目的は、相手を論破することではありません。「この仕事を経験すると、半年後にこういう場面で役に立つ」と、相手の先にある姿をストーリーで描くと、納得してもらいやすくなります。
私は、力ずくで人を動かすやり方は勧めません。正論で押し切れば、その場では「はい」と言ってもらえるかもしれません。ただ、本人が納得していないことは、なかなか続きません。答えを渡すか、引き出すかの使い分けは、コーチングとティーチングの違いで詳しく書いています。
仕事の任せ方と、年上の部下への伝え方
仕事の任せ方は、伝え方の変化で考える
仕事を任せるときは、最初は指示で始め、慣れてきたら要望や提案を増やしていく、と考えると分かりやすくなります。任せるときには、どこまでを部下が決めてよく、どこからは相談してほしいかを先に決めておくと、部下は安心して判断できます。任せ方の進め方は後継者への権限移譲と育成|任せ方を変える最初の90日で、責任と権限の分け方はRACI図とは?責任と権限の決め方で紹介しています。
年上の部下に伝えるとき
年上の部下を持つ管理職の方も多いと思います。経験の長い相手には、指示よりも、要望や提案の形の方が受け取ってもらいやすい場面もあるかもしれません。その場合も、要望の伝え方と同じく、相手の経験を認める言葉を添えることが役に立ちます。
ただ、年齢で伝え方を決めてしまうより、その仕事について相手がどれだけ経験を持っているかで選ぶ方が、自然かなと思います。年上でも初めての仕事なら、目的や背景を丁寧に伝える指示が必要ですし、年下でも経験の長い仕事なら、任せた方が力を発揮できます。
whymeの人材開発・企業研修では、担当している仕事や部下との関わりを題材に、コーチングで振り返りながら実践を重ねます。管理職研修として、部下指導や伝え方をテーマにした研修もご相談いただけます。
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