残余利益方式とは?純資産と「期待を上回る利益」で考える評価

残余利益方式とは、会社の純資産に、株主(出資者)が通常期待する収益を上回る利益、つまり残余利益の価値を加えて株式を評価する考え方です。企業価値評価の理論モデルの一つで、国税庁の「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」では、非上場株式の評価見直しの軸として検討されています。

仮の例で考えます。純資産が1億円で、株主が年5%の収益を期待するなら、期待される利益は年500万円です。実際の利益が年800万円なら、差額の300万円が残余利益として評価に加わります。利益が500万円を下回れば残余利益はマイナスとなり、評価は純資産より低くなります。

8月20日の第5回資料は、評価額を「簿価純資産±数年分の超過収益」とする案を仮に示し、赤字や低収益の会社は簿価純資産を下回る評価になると説明しています。第6回資料でも、利益と配当がない会社について、純資産を100とした場合に還元率5%で78になる計算例が示されました。

国税庁の第6回資料に示された計算の案

9月16日の第6回資料では、検討の素材として次の算式が示されました。評価額は、直前期末の純資産に、1〜5期目の残余利益をそれぞれ還元率で割り引いた合計を加え、しんしゃく率を掛けたものです。残余利益は「1年あたりの利益 −前期末の純資産×還元率」で計算し、各期末の純資産は「前期の純資産+1年あたりの利益 −1年あたりの配当」で順に求めます。利益と配当は、過去5年間の実績を1年あたりにならした額です。6年目以降の残余利益(ターミナルバリュー)は、算定が難しいことなどから加算しない案です。

利益と純資産は、会計基準の選び方による差が評価額に出ないよう、法人税申告書に基づく数値を使う案が示されています。還元率としんしゃく率の考え方は次回以降の議論とされ、どちらも数値は決まっていません。次の表は、資料の要素と、手元で確認しておきたいことの対応です。

第6回資料の算式に出てくる要素と、自社で確認しておくこと
要素第6回資料での考え方(検討中の案)自社で確認しておくこと
純資産直前期末の純資産。法人税申告書の利益積立金額と資本金等の額を基にする直近の法人税申告書と決算書の純資産
利益課税時期前5年の正常利益を1年あたりにならした額。将来も続くと見込めない特別な損益は修正する5期分の利益の推移と、大きく動いた年の理由
配当過去5年間の配当金額を1年あたりにならした額配当の実績と、特別配当・記念配当の有無
還元率株主が通常期待する収益率。算出方法は今後の論点数値が決まるまで、試算の前提として扱う
加算期間5年程度(中期経営計画の年数3〜5年も参考)5年先までの事業の見通しと、その根拠
しんしゃく率時価として適正な範囲で設定する考え方。還元率と併せて今後議論決定前の数値を、自社の結論に使わない

現行の評価方法と何が違い、評価はどう変わるのか

現行制度では、同族株主などが取得する株式は、会社の規模に応じて類似業種比準方式、純資産価額方式、またはその併用で評価します。第6回資料は、規模の大きな会社ほど相対的に評価額が低くなる現行の体系と、類似業種比準方式の理論的な根拠の弱さを課題に挙げ、規模別の方式をなくして残余利益方式を基礎にする方向を「より合理的な評価方法への見直し」と説明しています。資産管理会社や開業後5年未満の会社などは、残余利益方式によらず純資産価額方式で評価する案も示されています。

同じ資料には、加算期間5年・還元率8%と仮定し、1,378社の申告データで計算した試算も載っています。しんしゃく率を0.8とした場合、現行の申告評価額以下になる会社の割合は、小会社で67.9%、中会社で42.2%、大会社で24.2%でした。一方で、大会社の評価額の中央値は現行比で71.7%上がっています。仮の条件による試算であり、自社の評価が上がるか下がるかは、利益と純資産の水準、今後決まる条件によって変わります。

報道と会議資料を、経営の準備にどう生かすか

8月31日の税務研究会「経営財務」は、残余利益方式を軸とした評価見直しの方向性を報じました。制度の結論はまだ出ていませんが、計算の案を見ると、過去5年の利益の水準と、その利益が今後も続くかが評価の中心になることが分かります。

ここから経営の準備として考えたいのは、「今の利益は、どの仕事と人によって生まれているか」です。制度の結論を待つ間にも、収益の構造を後継者と共有することはできます。以下は新制度の計算手順ではなく、whymeが提案する承継準備の進め方です。

利益の数字を、三つの資料に分けて整理する

最初に、過去数年の決算書を並べ、売上・粗利益・固定費・利益が動いた理由を書き添えます。大口案件、原材料費の変化、設備の売却などがあれば、金額と発生した事情を確認します。利益が増えた年をすべて成長、減った年をすべて失敗と扱うと、次の経営の判断を誤ります。

決算書の数字は元資料として残し、税務上の調整は税理士と確認する別資料にします。第6回資料では、一時的な役員退職金やオペレーティングリース取引による損益を除いた「正常利益」で評価する案や、親族役員への役員報酬の扱いも論点になっています。ただし、自分たちが一時的と考えた費用を、税務評価でも当然に除けるとは限りません。今後の売上や費用の見通しは経営計画として分け、数字を加工した理由と確認者が追えるようにしておきます。

  • 決算書の実績と、増減の理由を並べる
  • 税務上の扱いが未確認の項目に印を付ける
  • 将来の見込みには、受注・契約・人員などの根拠を添える

利益を支える仕事を、後継者の課題に変える

先代の取引関係で維持している受注、特定の担当者しかできない見積もり、更新時期が迫る設備。決算書だけでは見えない条件が、承継後の利益を左右します。数字の説明を営業・製造・経理の担当者と確かめると、引き継ぐべき仕事が具体的になります。

次の表は整理の例です。会社の実績や効果を示すものではありません。課題ごとに後継者が決める範囲と、幹部が支える範囲を分け、最初の実行項目を一つ選びます。

収益の論点を承継課題へ変える整理例
数字で気づいたこと現場で確認すること承継計画に置く行動
特定顧客への売上集中先代への依存、契約と担当窓口後継者と営業責任者が顧客面談を担当する
粗利益率の低下原価上昇、値決め、見積もり権限見積もりの判断基準と承認範囲を整理する
設備更新による費用増必要な能力、投資時期、回収の見通し後継者が投資案を作り、幹部と検討する

株価への不安と、利益を伸ばす判断を一緒に検討する

「利益が増えると承継が難しくなるのでは」という不安があると、必要な投資まで止めたくなるかもしれません。しかし、承継後の会社には、返済、採用、設備更新を続ける力が必要です。評価への影響だけを理由に利益や支出を動かす前に、事業に何が残るかを考えます。

税理士が確認する株式評価の条件と、経営者が決める事業の方向を、同じ場で照らし合わせます。投資を行う案と時期を変える案について、資金残高、人員、受注への影響を並べます。将来の制度を予測して一つの答えに固定するより、何が変われば判断を見直すかを記録しておく方が運用しやすくなります。

事業承継の伴走支援で、数字を月次の実行につなぐ

整理した資料が一度の説明会で終わると、後継者の日々の判断にはつながりません。たとえば月次の会議で、利益の変動、取り組みの進み具合、先代に確認したいことを順に扱い、次回までの担当と完了条件を決めます。会議の目的は数字を報告することに加え、後継者が根拠を持って決める経験を積むことです。

whymeの事業承継の伴走支援では、経営者・後継者との対話、経営課題の整理、計画の実行と振り返りをつなぎます。税務上の評価・調整は税理士の確認を交え、収益を支える仕事と経営チームを引き継ぐための役割分担を具体化します。