心理的安全性とは

心理的安全性が高い職場は「ぬるま湯」だ、というのはよくある勘違いです。心理的安全性とは、チームの中で質問をしたり、反対意見を言ったり、失敗を報告したりしても、責められたり恥をかかされたりしないと、メンバーが共通して思えている状態のことです。

この考え方は、ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・エドモンドソン教授が、チームの研究を通じて広めました。その後、Googleが社内で行ったチームの研究(プロジェクト・アリストテレス)で、成果を上げるチームの条件の一つに挙げられたことで、日本でも広く知られるようになりました。この研究では、心理的安全性のほかに、お互いを信頼して仕事を任せ合えるか(信頼性)、目標や役割がはっきりしているか(構造と明瞭さ)、仕事に意味を見出せているか(仕事の意味)、自分の仕事が組織や社会に影響を与えていると感じられるか(仕事のインパクト)が挙げられています。

逆に、心理的安全性が低いチームでは、次のような声が聞こえてきます。

  • 「言い返すと面倒なことになるから、とりあえず黙っておこう」
  • 「職場では役割を演じているだけ。たまには本音を言いたい」
  • 「頼む前から相手が不機嫌な顔をしている。断られるに違いない」

どの職場も余裕がなく、お互いに無関心になっている状態です。心理的安全性は、こうした状態から抜け出すための考え方です。

心理的安全性が「ぬるま湯」と勘違いされる三つの理由

心理的安全性という言葉が広まる一方で、「心理的安全性を高めると、職場がぬるま湯になるのでは」という声もよく聞きます。勘違いが生まれる理由は、大きく三つあるのかなと思います。

一つ目は、「仲がよい」ことと混同されること。 雑談が多く、和やかな職場は、一見すると心理的安全性が高く見えます。ただ、仲のよさを守るために、言いにくいことを誰も言わない職場もあります。それは心理的安全性が高いのではなく、衝突を避けているだけです。

二つ目は、「厳しいことを言ってはいけない」と受け取られること。 心理的安全性を「部下に気をつかうこと」と捉えると、上司は指摘やフィードバックを控えるようになります。けれど心理的安全性は、厳しいことを言わない状態ではなく、厳しいことも率直に言い合える状態です。

三つ目は、「仕事の基準を下げること」と混同されること。 失敗を責めないことと、成果を求めないことは別です。基準は高いまま、失敗を早く報告し、学びに変えられる。それが心理的安全性の高い職場です。

私は、意見が違うのは健全なことだと考えています。チームの中で意見がぶつかるのは、メンバーが本気で仕事に向き合っている証拠でもあります。問題は、意見が違うことではなく、違う意見が言えないことです。

学習する職場とは:心理的安全性と仕事の基準の4つの組み合わせ

エドモンドソン教授は、心理的安全性と、仕事に求める基準(責任や挑戦の高さ)の二つの軸で、職場を四つに分けて説明しています。セミナーでは、四つの職場を次のように呼んでいます。

心理的安全性と仕事の基準の4つの組み合わせ
項目仕事の基準が低い仕事の基準が高い
心理的安全性が高いヌルい職場:メンバーは居心地のよい場所にいるが、仕事への充実感はない。成長したい人ほど離れていく学習する職場:メンバーが自ら学び、成長する。健全な衝突を重ねながら、チームとして結束し、高い成果を出す
心理的安全性が低いサムい職場:言われたことだけを黙々とこなす。成果を出すことより、仕事をしているふりや、弱みを隠すことに力を使うキツい職場:一見すると士気が高い。だが不安と罰で動かしているので、内向きの仕事が増え、不正のリスクも高まる

心理的安全性の「ぬるま湯」は、この表の左上、ヌルい職場のことです。心理的安全性だけを高めて、仕事の基準を下げてしまうと、ここに行き着きます。反対に、基準だけを高くして心理的安全性が低いままだと、右下のキツい職場になります。

めざすのは右上の学習する職場です。どちらか一方ではなく、両方を高めることがポイントです。

自分の職場がどこにあるかは、上司と部下で見え方が違うことも多いかなと思います。上司は「学習する職場」だと思っていても、部下は「キツい職場」だと感じているかもしれません。一度、チームの中で「いまの職場は、この四つのどこにあると思いますか?」と聞いてみると、思わぬ答えが返ってくることがあります。

心理的安全性の4つの因子

では、心理的安全性は何によって高まるのでしょうか。石井遼介さんの『心理的安全性のつくりかた』(日本能率協会マネジメントセンター、2020年)では、日本の職場に合わせて、心理的安全性を4つの因子で捉えています。本で紹介されている因子の名前と、上司の行動に置き換えたときの例を、私なりに整理すると次のようになります。

心理的安全性の4つの因子と上司の行動の例
因子中身上司の行動に置き換えると(例)
話しやすさ思ったことや気づいたことを、気兼ねなく口に出せる話を途中でさえぎらない。悪い報告にも、まず「教えてくれてありがとう」と返す
助け合い困ったときに、お互いに相談し、助けを求められる自分一人ではできないことを、上司から先に認めて相談する
挑戦新しいことを試し、失敗しても次に活かせる小さな試みを任せ、失敗したら原因ではなく次の手を一緒に考える
新奇歓迎人と違う考えや個性が、チームの力として受け入れられる「ほかの見方はないかな?」と、違う意見を自分から求める

4つの中で、最初に取り組みやすいのは「話しやすさ」です。話しやすさがないと、相談も、挑戦の報告も、違う意見も出てきません。

私自身、会議や説明の場では、話を区切って質問を受けるようにしています。「一旦ここで話を切ろうかなと思いますけど、ここら辺で何か質問や気になっているところはありますか」と聞き、誰かに振るときは「急に振られても困ると思いますけど」と一言添えます。質問を最後にまとめて受けると、聞きそびれたことや小さな違和感は、そのまま流れてしまいます。区切って聞くことと、配慮の一言を添えることは、どちらもすぐにできる小さな行動です。話しやすさは、こうした小さな行動の積み重ねでつくられるのかなと思います。

心理的安全性の作り方:意識ではなく、行動を変える

心理的安全性を高めようとすると、「メンバーの意識を変えよう」という話になりがちです。けれど、意識は外から直接変えられません。順番は、行動を変える → 意識が変わる → 成果が出る、です。そして最初に行動を変えるのは、上司です。

人の行動は、その行動の後に何が起きたか(みかえり)で変わります。よい結果が返ってくる行動は増え、嫌な結果が返ってくる行動は減ります。仮の例で考えてみます。

行動と「みかえり」の例(仮の例)
項目うまくいかない例うまくいく例
きっかけお客様からクレームが入るお客様からクレームが入る
部下の行動上司にクレームを報告する上司にクレームを報告する
上司の行動部下を怒鳴る部下と一緒に、お客様のための対応策を考える
部下へのみかえり怒られて、気持ちが落ち込むクレームに早く対応でき、不安が軽くなる
その後報告が遅れるようになり、上司と距離を取り始める問題があればすぐに報告し、相談しやすい雰囲気ができる

うまくいかない例では、上司は怒鳴ってすっきりするかもしれません。けれど部下は「報告すると怒られる」ことを覚え、次から報告が遅れます。悪い知らせほど早く上がってきてほしいのに、上司自身の行動が、それを止めてしまっています。怒ることと叱ることの違いは、怒ると叱るの違いで、クレームを受けたときの動き方はクレーム対応のコツと流れで詳しく書いています。

私は、人の心が動かないと、組織も業績も変わらないと考えています。そして、問題が起きたときは、個人の性格より、職場の風土として見るようにしています。報告が遅い部下がいたら、「この人は報告が遅い」と決めつける前に、報告した後に何が返ってきているかを振り返ってみてください。

心理的安全性を高める方法:上司が最初に変える三つの行動

最後に、心理的安全性を高めるために、上司が明日から変えられる行動を三つ挙げます。

  1. 区切って質問を受ける。 会議や説明の最後ではなく、途中で区切って「ここまでで気になることはありますか?」と聞きます。人に振るときは配慮の一言を添えます。
  2. 悪い報告に、まずお礼を言う。 内容への指摘は、その後で構いません。最初の一言が、次の報告の速さを決めます。
  3. 自分の失敗や、できないことを先に話す。 上司が弱みを見せると、部下も「分からない」「困っている」と言いやすくなります。

どれも小さな行動ですが、続けることで、チームの中に「ここでは言っても大丈夫だ」という感覚が育っていきます。部下と一対一で話す時間をつくるなら、1on1ミーティングとは?の進め方も参考にしてください。経営者が代わった直後のチームづくりについては、事業承継後の経営|新社長の最初の100日とチームづくりでも触れています。

組織の風土を、心理的安全性ともう一つの軸から測る方法は、ウェビナーの組織と採用シリーズ「組織風土」の回でも解説しています。whymeの人材開発・企業研修では、管理職研修やチームづくりのテーマとして、心理的安全性を高める関わり方を、自分の職場に引き寄せて考える研修もご相談いただけます。